卒業演目
その後はいつも通りだった。いつも通りマーサおばさん(ともうひとり下働きの人)の美味しい夕飯を食べ、学校の話題を口に出す。3年間同じことを延々と繰り返してきた。それでも話は止まらない。
「ねぇ、1か月後の卒業演目どうする?」
ピスがまじかに迫ったきた卒業の話題を切り出した。
この世界の学校では試験はないのだが代わりに卒業する際に「卒業演目」というのがある。「術練学校」の場合はこれまで習ってきた科目の中から自分の一番得意な科目を選んで発表するのだ。この発表する場所というのは街の北にある演習場だ。そこはイメージするとしたら現代のサッカー場か、古代のコロッセウムだろうか。ただ試合や卒業演目をするだけでなく、そこでは劇やオペラ、そしてたまに行政上の知らせを行う場所として多種多様な行事に利用されている。
これらの行事の中でも「術練学校」や「撰術学校」の卒業演目はことさらに注目をうける。理由は2つ。1つは未来を担う子供たちの成長をこの目で見られるから。そしてもう1つ重要なのが見ていて楽しいからである。
学生の中には自分の魔術理論をとうとうと展開するといった。学術的な発表をする者もいる。しかし大半のものはとにかく派手なものを好む。体術と剣術を混ぜ合わせた演武であったり、魔法を大量に使ってみるものを驚かせたりするのが街の住民もそしてなにより学生のおおきな楽しみなのだ。
もちろん学生にとってもメリットが多々ある。なかでも重要なのが他の街からのスカウトだ。「撰述学校」に入るためには推薦を受けるか、自らその街に赴いて自分の力量を学校に示さなければならない。しかしこの卒業演目では多くの街から学校の勧誘者がおとずれるのだ。彼らの目に留まればわざわざ街へ行く必要はなくなり、その場で推薦をもらえるのだ。
「そうだなぁ。俺はやっぱり剣舞かなぁ」
ソドが大きく伸びをする。
「それも試合形式のやつ。やっぱり型も大事だけど実戦形式の方が盛り上がるだろうし」
「私は、特大魔法かな。まだ、どうやるかは決めてないけどやるならみんなが驚くようなものにしたいなぁ」
「そういうお前はどうなんだよ、ピス」
「うん、ちょっと考えたんだけどね。試合にしようかなって。」
「えぇ!?」
ソドが素っ頓狂な声を上げる。無理もない。まだ「殺人衝動」を制御しきれていないのだ。ピスが本気でやれば必ず死人ができてしまう
「俺らじゃ無理だぜ。なんも抑えていないお前とめんの」
「そう。だから敢えて止めない」
「どういうこと?」
ウィザが怪訝そうに尋ねた。
「つまりさ、俺が本気でやっても勝てない人を連れてくるんだ。たとえばこの国最強のロラン将軍とか」
今度はウィザもソドもおったまげる。ピスはなんて無茶なことを考えるんだろう。無理だろと二人とも言う
「無理かどうかはやってみないとわからないさ。卒業演目規則にはこう書いている。「教授である者は可能な限り生徒の演目達成に協力しなければならない」とね。それに俺は将軍に勝ちたいわけじゃない。負けてみたいんだ。いくら俺でも勝てないやつがいるんだって実感したいし、街のみんなも面白がるだろう」
大胆不敵なことを言うやつだ。普段は少し頼りないことがあるくせに、たまにピスはこんなことを言い出すのだった。