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棍を選んだ理由

 ピスは夢を見ていた。実際に起こった出来事なのか、それともピスの頭の中で想像していることなのかは判然としなかった。

夢の中のピスは今と比べるとかなり小さい。背丈から判断すると6歳くらいだろうか。まだ「基礎学校」に入って一年もたっていないころだろう。村の中の学校は「術練学校」と違って木造でこぢんまりとしている。幼いピスは学校の前にあった花壇のレンガに腰かけていた。両隣にはこれまた小さいソドとウィザがいる。まだドワーフ種の特徴が出てきていないのか、幼いピスと背丈はさほど変わらなかった。ウィザも小さいがあい変わらず美しい。三人は身を大きく振ったりときには笑いすぎて花壇から転げ落ちたりと楽しく談笑をしていた。あたりは夕日のオレンジに包まれていたので夕暮れ時なのだろう。

「なにを「剣」にするか決めた?」

ウィザが二人に問いかける。基礎学校に入って一年間は「剣術」よりもまず体力の強化に充てられる。走らされたり重いものを持ち上げたり、とにかく今後の訓練においてもへばらないような体を作るのだ。それがこの時期になると終わりを迎え、いよいよ各自が選んだ「剣」の訓練をするようになる。前にも説明したかもしれないが、「剣」はあくまで概念で大剣であろうと斧だろうと、なんなら弓であっても構わない。

「ああ、俺は双剣にするぜ! かっこいいからな!」

ソドからシンプルな答えが返ってくる。今と変わらずかっこよくて派手なものが好きだ。周りの学生から青臭いだの、ダサいだのからかわれているがソドが自分の好きなものを曲げたりはしなかった。きっとこれからも変わらないのだろう。そんなソドをそばでみててピスはうらやましく思う。

「ウィザは何にするんだ?」

「私は、槍にするよ。あ、でも長いやつじゃなくてね、短槍ってよばれてるやつ」

そういうとウィザは、はにかんだ。幼いながらもえくぼができて二人の少年はドキッとさせられてしまう。

「やっぱり魔法をよりよく使うためか?」

ピスが内心を悟られないように慌てて質問をする。

「そうだよ。「剣」であればなんでも杖代わりにできるけど、やっぱり杖に近い形の方が魔法をイメージしやすいかなって思って」

「確かになぁ。ソド、双剣で魔法の発動をイメージできんの?」

ピスはソドに話をふってみた

「当たり前だ、イメージはもうできてんだぜ。こうな、双剣を胸の前で1つに重ねるんだ。そうすると杖っぽくなるだろ。あとな、こう右手は逆手にして左手は順手で剣を持つだろ。両方のこぶしを前に突き出して柄と柄を合わせれば剣が1つの長い杖みたいに見えるだろ。そうすればイメージしやすいぜ」

ソドがうれしそうに語る。双剣を選んだのが失敗だったのかどうか定かではないがすくなくとも術練学校を卒業する前の現在、ソドは魔法に悪戦苦闘しているのはまだ3人とも知る由もない。

「それで、ピスはどうするの?」

ウィザが少し心配そうにピスに声をかけた。この時点で二人は既にピスの「衝動」を知っている。だが、まだ剣を選ぶ前なのでソドもウィザもピスを抑えられるか自信がついていないのだ。

「うーん、俺は棍にしようかなって」

ソドとウィザは顔を見合わせる。

「棍ってあのぼうっきれ?」

「道端に落ちてる木の棒とか使うの?」

「違うよ! ちゃんとソドのお父さんに仕立ててもらうさ。ヒノキとか樫の質のいいに樹を加工して、その上から柄とかに金属をはめ込んで強度を上げるんだ」

ここで一応補足しておくが、同年代の子供はここまで武器の材質や使い方、魔法のイメージなど詳しくない。これは3人だからこそこんな会話をするのであって、ここでも既に3人の才能の片鱗を見せていたのだった。

「それに……」

「「それに?」」

2人が同時に話を促す

「棍は刃を持たないから人を傷つけることはないかなって……」

それを聞いた2人はにっこりとほほ笑む。実際には成長するにつれて刃などなくても勝手に魔法で刃を作り出してしまったり、急所をお構いなくついて即死を狙ったりしてしまうのだが、ピスの優しい心はこの後殺人衝動を抑制するための大きな力となっていく。


10年近くも前の記憶、いや夢か。それでもこの小さな子供の大きな決心は棍を見るたびに思い出されるその決心は、いまだにピスの心の根元で忘れまい忘れまいとして輝いていたのであった


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