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少年の名はピス

 ここは街からほんの少し離れた大樹の根元、少年が一人気持ちよさそうに寝ていた。今は昼下がり、いくら現実の世界とは異なるものがあっても少年少女が通う学校はこの異世界でも存在していた。当然この日も学校は朝からあり昼過ぎまで行われている。今この瞬間も街の中の学校では授業が行われていた。ちなみに科目は「剣術」。剣の握り方や剣の種類、また「型」の習得、はては剣舞の仕方など剣にまつわるものを幅広く扱う科目である。

 

 どのくらい時間が経っただろうか、30分? 1時間? 寝ていた少年はこのように分からないかもしれないが、この少年をずっと見ていた我々からは1つの授業の初めから終わりまで、つまり50分ほど経過していた。(この世界にはタルという時間の概念が存在するが、読者の方々がいちいち頭の中で変換するのは面倒だと思うので以降は私が勝手にタルからそちらの分や時間といったものに変換させてもらおう)

 授業が終わった時間から少し経つと遠くの方から1組の男女が歩いてきた。大樹の根元で寝ている少年と年はおなじで15歳くらい。少年の方は金髪でエルフの子供なのか尖った耳をしている。いかにも活発そうで元気な子であるが身長が妙に低かった。少女の方は美少女と言っても差支えのないくらい顔や体の形が整っていて碧髪・碧眼ではあるがこれまたエルフの子供の特徴として尖った耳をしている。しかしエルフ種特有のつつましい胸などではなく体つきは15の少女にしては大人の色香を漂わせていた。

 大樹の根元にたどり着いた2人は寝ている少年を頭を叩いたり、耳を引っ張ったりして容赦なく起こした。授業をさぼった少年がこんなところで気持ちよさそうに寝ているのだから当然と言えば当然だ。

「おーい、ピス! いい加減起きろ!」

少年のソドは耳元でやかましくいう。少女のウィザも耳を引っ張りながら

「起きないと頭に水魔法をかけちゃうよー」

と、さりげなく脅し文句を吐いていた。

それでもまだ少年の意識は戻らない。仕方ないと少年ソドはため息をついて少女ウィザの方に顔を向けた。

「しょうがねぇ、ウィザ、思いっきりやってくれ」

そういうと、ウィザは待ってましたとばかりに笑顔でうなずく。少女が笑顔なのに対し、少年は両手の顔の前で合わせこうつぶやいた。

「先に謝っておく。すまん、でもこうするしかないんだ」

すると、少女は両手を前に突き出し、手のひらをいっぱいに広げ、力を込めた。すると手の周りが青色に光り出す。十分に魔法の力が溜まった後、少女の口から呪文が唱えられる。直後、眠っている少年の頭上に氷水が現れて重力に逆らわず、まっさかさまに少年の頭へ落ちていった。

「痛、冷たい! なんだこれ!」

顔がびしょ濡れになった少年は上半身をがばっと起こした。

「おはよう、ピス」

少女ウィザがにっこりピスと呼ばれた少年に笑いかける。傍らにいる少年ソドは相変わらず両手を合わせてお地蔵のように動かない。ただ、微妙に体全体が震えている。どうやら謝っているようで本当は笑いをかみ殺しているようだった。

「ひどいじゃないか、ウィザ!」

「しょうがないじゃない、あなたが全然起きないんだもの」

ウィザは当然のように反論する。この場合はもちろん学校をさぼりその上全然起きなかったピスの方が悪い

「そうだぞ、ピス。お前が起きてさえいれば……、ってもうだめだ。笑いが収まらない、ひっでぇ顔だ!」

そう指摘したソドは腹を抱えて爆笑し始めた。彼が笑うのも無理はない。ウィザの水(とついでに氷)の魔法をぶっかけられ飛び起きたはいいものの、右目はまだ半分しか開いていない。おまけに髪はぐっしょりとしていていつも立っているのに水のせいで七三分けのようになっていた。おまけにその髪の上には氷が挟まっている。

「これに懲りたら、いくら剣術の授業に出たくなくてもさぼらずにせめて見学ぐらいはしてね」

ウィザとソドはピスが剣術の授業にも魔術の授業にも出たがらない理由を知っている。その理由を考えればさぼらせてやってもいいかとつい情をかけたくなるが、授業中一人気持ちよく寝ていたことを考えると許してはやらなかった。



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