6章 再び、森へ
短い…です。
ということで、私、ヴェノスト・ラ・シエルです。
……ああ、もうどうなってるんだ。
でも、エレマのお願いなんて、断れないでしょ。
私はベッドに飛び込むと、枕に顔をうずめた。
部屋はあの連れられた時の部屋だ。これからは、ここを使っていいんだそうだ。
「どーしたらいいのかな、どうやったら帰れるんだろう?」
エレマの話を聞いた時、不意に家族のことがよぎった。
兄弟はいなかったけど……
母も父も優しくて、いい家族だった。
「帰りたい……」
エレマたちはいい人たちだ。
私はちょっと色々あったし、人間不信なところがあるけど、それでも、エレマたちのことは心から信用できると思う。
身元を定かじゃない私に、こんなよくしてくれる人はなかなかいないだろう。
異世界で会えた最初の人がダレンさんでなければ、私はどうなっていたか分からない。
身ぐるみ剥がされていただろうし、奴隷とかがいるならば、そうなっていたかも。
そういう意味で、二人には多大な恩がある。
でも、それとはまた別なのだ。
家族はやっぱり家族だから……会えないのは、辛いし、寂しい。
そんな風に憂鬱になりかけた時、
コンコン、とノックの音が聞こえた。
「はい」
慌ててベッドから立ち上がって返事をすると、来ていたのはダレンさんだった。
「今、いいだろうか?」
「あ、はい」
ダレンさんはベッド横の椅子に腰掛けた。
「これから、森に行って、倒れているという大熊を見てこようと思うんだが……君も行くか?」
「ド、ドルデ?」
「ああ、おそらく君の言った大きな熊は、大熊だろう」
へえ、あれ、ドルデっていうんだ。
「あの、何で見に行くんですか……?」
「素材を取りに行くのもそうだが、あまり村の方に近いと、森から獣が出て来かねないからな。その処分もしなければならないんだ。できれば、そこへの案内なんかもしてもらえると嬉しいんだが……」
そうか、素材ね。ゲームとかでもそうだもんな。
「案内ができるか分かりませんけど……私も、確認したいです。あれが、本当にあったのか……自信がないので」
「ああ、分かった。道中の安全は保証しよう。これでも俺はA級冒険者だからな」
そう言って微笑む。
ダレンさんはちょっと固い人のようなイメージがあったけど……こうして笑うと、なんだかエレマさんに雰囲気が似てる。
夫婦って似るものなんだね。
「いつ出るのがいい? 早い方がいいのだが」
「私も、早い方が……あ、今からでも!」
「い、今から?」
あ、焦りすぎたか。
「今からは、早いですか……?」
「あー……いや別に構わない。ヴェノストが大丈夫なら、今からでも。そうか、今からか……」
ダレンさんは準備してくると言って、部屋を出て行った。
私も、何か準備しなきゃ。
と言っても、何も持っていないけど。
自分の服装を見てみる。
制服のまま寝たから、スカートはシワシワ、ネクタイのほどけかけだ。
「ううん、でも他に服ないしね。しょうがないよね。後で、新しい服とか……頼んでもいい、かな」
ネクタイを結び直して、スカートのシワを何とか伸ばすと、私も部屋を出た。
次回はまたダレン伯爵のターンです。
主人公、もっと前に出て!