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このバカ宗馬! アニキ! ゴリラ!

「あら、ステキなお店ね」《特に変わったところはなさそうだけど》

「そうだろう」《何か所も隠しカメラがあるぞ》

「何度かこっちも来てるけど、このお店は始めてだわ」《どこに?》

「そうか」《パッと見渡して左の柱に施してある模様の1つ。手前の置物の穴の1つ。奥の店員のカフス。それに試着室のライトにも、超小型カメラがくっついてる》

「宗馬って、ほんとによく知ってるのね。だから宗馬って好きよ」《少しは会話も工夫しなさい。このダイコン!》

「ありがとう。夢ちゃんにそう言われると嬉しいよ」《状況判断が先だろ……》

「品数も多いし、目移りするわ」《さっそく試着室に入ってみるわ》

「どれでも好きなもの選んでいいよ」《そのスゴイ派手なドレスなんかどうだ》

「あら、この服ステキ~。今度の誕生日にプレゼントして欲しいなぁ~」《誰がそんなチャラチャラした服着るもんですか。こっちにするわ》


 てきとうに手元にあったのをつかんだ。

 宗馬が指した思いっきり背中と胸が開いてて、下品な真っ赤なドレスなんて着ないわよ!

「あ、ああ。夢ちゃんならよく似合うよ」《1度あんな服を着てる夢ちゃんも見てみたいような気もするけど》

「ほんとに? 嬉しい。ちょっと着てもいいかしら」《100回ほどさらわれずに試着することになったら、考えてあげてもいいわ》

「ああ……すいません、試着していいですか?」《楽しみにしてるよ。なんせ馬子にも衣装って言うからな》

《うるさいわね!》


 試着室に入った。宗馬の指摘したカメラの視線を感じるわ。気づかないフリするのって、けっこう大変なのよね。


 コートを脱ぐ。

 上着を脱いだ。

 …………。

 ズボンを降ろす。


 …………。


 ……チョット。いつまで見てるのよ。

 時間をかせぐために、脱いだ服をたたむ。


 …………。


 ……分かったわよ、わたしが美人だから見たい気持ちは分かるけど。ちゃんと中桐さん返してもらうからね!

 シャツも脱いで、ストッキングと下着だけになった。

 ……さらう気ないのかな? まあいいわ、早く着替えて次いきましょ。

 うわあ。成り行きとはいえ、こんな服手に取ってたのね……あのドレスよりマシだけど趣味わるぅ~。

 あ……!

 足元がなくなった。

 空中でバランスを取ってキレイに足から着地。厚いマットが敷いてあるけど、頭から落ちてケガでもしたらどうするのよ! まっ、運動神経のいいわたしには問題ないけど。


《宗馬、落ちたわ。今あんたの足元》

《惜しい! あの服着たとこ見られなかったか》

《宗馬!!》

《ウソウソ、オレは、もう少したってから騒ぎ出すことにするよ》

《そうしてちょうだい》

 ……さて、今の感じからすると、だいたい3mくらい下だわ。頭上の入り口……フタよね、あれはもう閉じてる。明かりは何もなくて真っ暗だけど、気配で周囲の状況は手に取るように分かるわ。

 あっそうだ、先に服を着ておいた方がいいわね。

 一緒に落ちて来た服を身につける間に、部屋の外から人が近寄ってくる気配が感じられた。人数は2人。天井から吊り下がった裸電球の光がともる。

 ドアが開くのと同時に着替え終了。あぶないところだったわ。

「ほう、服を着ているとは珍しいな……」

 なんか、いかにも『アニキ』って感じの男が、タバコをふかしながらサングラス越しにわたしをいやらしい目で見つめる。

 その後ろには、これまたいかにもって感じの大男が立ってる。まるでゴリラだわ。

 あら? わたしが服を着てなかったってことを知ってるってことは、コイツがカメラで見てたのね!

 殴ってやろうかと思ったけど、中桐さんを助けるまでは我慢よ我慢……。

「おお、恐い恐い。そんなに睨まないでくれよ」

 白々しい口調でヘラヘラしながら言う態度が、なんとなく宗馬を思い出してよけいに腹が立つわね。

「どう言うこと! ここから出して! 帰して!」

 アニキに詰め寄って、落とされた人が言うんじゃないかってことを白々しく叫んでみる。どうせだから少しは抵抗してみようかしら。

「おとなしくしておいた方が、身のためだぞ」

 スッと目を細めて低い声で言った。


 きゃああ♪ 普通ならこれですくんじゃうのかも知れないけど、こんなセリフいまだに聞けるなんて、おかしー! 笑わしてくれるじゃない。

「出して! ここから帰して!」

 叫びながら抵抗したりして。すぐにおとなしく連れて行いかれるつもりだったけど、面白いから少し遊んであげよう。

「おとなしくしろ!」

 後ろにいたゴリラがわたしの腕をつかんだから、逆にその手を引き寄せて軽くひねってみた。

「いてて! この馬鹿力女!」

 ゴリラに言われたくないわよ! このまま投げ飛ばそうか迷った時、口に何かが押しつけられた。

 この臭いは……とっさに息を止める。

 睡眠薬の臭い……まあいいわ。あんまり遊んでて、中桐さんに何かあったら大変よね。そろそろ潮時だわ。

 息を止めたまま、ゆっくりと体の力を抜いていく。本気で止めようと思えば1時間くらいは平気なのよね。

「まったくなんて女だ」

 ゴリラが乱暴にわたしを担ぐ。

「イキがよくていいじゃないかロウ様もお喜びになる」

 ロウ様? こうやって誘拐した女の子を、ロウってボスに差し出してるのね。

 あら!? そう言えば、コイツら広東語で話してるわよね?

 わたしは日本語で話してたのに通じてたみたいだったから……わたしの意思を読み取って世界が翻訳してくれてる? ってことは、これが今回の修正に関わることなの?


《やっほー! オレオレ。どうだ? そっちは》

 脳天気な意思が伝わって来た。

《今、薬で眠らされてるフリしながら、どこかに運ばれてるところよ》

《オレなんか今、袋叩きにあってるとこ》

《なんですって! わたしを差し置いてあんたにそんなことするなんて。も~! くやしい!!》

《残念だったな~。もうすぐ瀕死のフリまでするんだぜ》

 わたしの言葉にも平然としてるわ。まったく……。

《ふん! そのまま、ほんとに死んでなさい》

《冷たいな~オレがこんな目に遭ってるのにぃ……それより、おかしいと思わないか?》

《何がよ?》

《コイツらの手口だ。殺す気なら銃で撃てば終わるし、さっきの藤澤さんだって、あんな所に放ったらかすなんて見つけてくれと言わんばかりだ。あまりにお粗末過ぎる》

《そうね。それより、世界が言葉を翻訳してくれてるの。この行動が今回の次元バランス修正に間違いないわよ》

《ほんとか? でも周りのやつら、ただの普通の人間だぜ》

《わたしの方もよ。手口がお粗末ってのもその辺に関係するのかもね》

《とにかく、様子見るしかないな。何かあったら伝える》

《分かったわ宗馬》

《気をつけろ夢ちゃん》

 行動だと分かったら冗談もおしまい。ここから先は仲間として気分を引き締めるわ。


 薄暗い通路のいくつかの角を曲がって、1つの部屋の前で止り、鍵を開ける音。

 ゴロッと無造作に床に投げ捨てられた。思わず出そうになる声を押し殺す……まったく、もう少し丁寧に扱いなさいよ!

 ゴリラがフンと鼻を鳴らして部屋から出る。アニキの方は外で待ってるようね。

 ドアが閉まり、真っ暗になる。鍵を掛ける音。気配が遠くに遠ざかって行く。跳ね起きて周囲の様子を探る。


 ……いた!

 何も置いてない物置のような部屋の奥に、もう1人、人間の気配がある。間違いなく中桐さんの気配だわ。

「中桐さん」

 そっと声をかけて気で状態を探る……大丈夫。わたしと同じように薬で眠らされてるだけみたい。少し足首を捻ってるようだけど、命に別状はないわ。

 彼女も半裸だったけど、幸い着てた服も一緒に周りに散らばってた。ふーん。あいつら少しは律儀なのね。

 まあいいわ、さっさとこんな所からは抜け出しましょ。

 この場所が次元バランス修正に関わってるのなら、わたしは彼女と一緒にいるわけにはいかない。どんな巻き添えがあるか分からないもの。

 とにかく1度、彼女を安全な所まで送って、もう1度戻って来るしかないわね。

 服を着せた中桐さんを背負って、ドアに仕掛けがないか……特にないようね、単純な鍵だけ。不用心だわ。

 音をたてないようにそっとドアノブを引きちぎって監視カメラがないことを確認してから外に出る。ノブは元通りに見えるように細工した。

《宗馬、中桐さんを見つけたわ。薬で眠らされてるだけで。体の方は大丈夫よ》

《そうか、オレはどこかに連れて行かれる途中だ。箱に入れられてるから、身動きが取れなくて身体が痛い》

《彼女を安全な場所に移すまで、もう少し我慢して。そのあとは思いっきり暴れていいから》

《分かってる。とにかく気をつけろ》

 さて、どこかに階段でもないかしら。表からはもちろん出られないけど、こういう所ってぜったい秘密の裏口なんかがあるのよね……別に普通の裏口でもいいけど。

 でもここ……通路っていうよりトンネルに近いわね。最初からあったトンネルに、うわべの体裁だけ整えたって感じだわ。カビ臭いし……なんだか、すえた臭いもするし。

 それにしてもなんでこんなに入り組んでるのよ。監視カメラがないのは助るけど。


 まただわ……急に無意味な行き止まりなんて作らないで!

 所々に人の気配のない部屋の入り口はあるけど、出口らしきものは見当たらないわね。

 1度通った通路には、少しずつわたしの気を残してるから堂々巡りをしてるわけじゃないんだけど……それにしてもほんとにひと気がないわ。さっきのアニキとゴリラはどこに行ったのかしら。


 何度も通路を曲がった所で、向こうの部屋からようやく人の気配が感じられた。


 気配を消す。ほんとに消す。

 もう、思いっきり消す。


 わたしだけならこれで普通の人にはまったく感知されなくなるんだけど、中桐さんが一緒じゃそうもいかない。でも眠ってくれている分、少しはましよね。

 これだけ広くて、部屋もほとんど使ってないのにあそこだけ使ってるってことは便利いい……つまり出入り口にも近いってことよね。

 そっと扉に近づいて、中の気配を探ると……いるわ。アニキの気配だわ。他にはゴリラも含めて6人いる。

 その中の1人が、かかって来た電話に大声で話してるけど、それ以外はのんびりしたものね。今のうちに出口を探しましょ。


「アニキ、大変です! 今日配置した5点目が発見されたそうです!」

 くくっ……ほんとにアニキって呼ばれてる。

「馬鹿な? 結界が破られるはずないだろう」

「ですが、すでに警察も動いているそうです」


 結界ですって?

 そろそろ聞き捨てならない話になりそうね。引き返して壁越しに会話を聞くことにした。

「お前ら、ちゃんと結界は張ったのか!」

「も、もちろんですアニキ。いつも通りに」

「なら、どうして見つかるんだ」

 アニキの大声と周りの子分が怯える気配。

 5点目ってたぶん藤澤さんのことね。私たちは能力のおかげで、世界が踏み込ませたくない所以外はどんな結界も関係ないのよ。

 でも、結界を張って何をしようとしてるのかしら?

 人間を生け贄にする呪術……よね。5点目って言ったから5人目なんだわ。藤澤さんの前の4人は……もう絶望的ね。


 部屋から慌ただしい足音が近づいて来た。まずいわ、どこかに隠れないと。

 中桐さんを背負ったまま、扉の上にあるわずかな出っ張りに足を掛けて、天井を押して踏ん張ることにした。

 時代劇なんかで忍者がやってるけど……この体勢ってけっこうキツイわね。安っぽい材質で持つかしら。

 アニキを先頭に3人が、見事なくらい誰もわたしに気づかずに出て来る。

「俺は5点目の状況を見てくる。お前らは手分けして他の点に異常がないか確認してこい。

 イェン、お前は六点目を配置しに行ったスーに連絡して、配置後残りの点の確認に行かせろ」

「分かりましたアニキ」


 さてわたしもあとを追いかけて、出口を教えてもらいましょ。

 先が見えないくらいまっすぐ伸びた通路を走って行くあとをついて行く。

 突き当たりを左に曲がって、あれ? いないわ。

 見失う距離じゃなかったはずだけど。おかしいわね、気配さえなくなってる。とにかくこっちに来たのは間違いないんだから、どこかに隠し扉でもあるはずだわ。通路の壁の厚さや継ぎ目に注意しながら、扉がないか探す……ないわね。

 かなり進むと、突き当たりに部屋があった。この中ね、扉を開いた音なんてしなかったけど、まあいいわ。電灯のスイッチは……やっぱりない。

 中に人の気配はない。それでも用心深く、少しだけ開くと、隙間からすっごくイヤな臭いがした。

 ゲッ! 何よこの臭い。通路に漂うすえた臭いを何倍にもした臭い。

 あわてて扉を閉めて離れた所で深呼吸。

 うー、胸がムカつく。今度は息を止めて、もう1度扉を開いた。


 ゲゲッ!


 イヤな臭いと同じくらいイヤなモノ……ボロボロで土埃りに汚れたミイラ化するほど長い時間放ったらかされた人間の死体が、何体も転がってた。

 こ、この臭いの正体ってこれだったのね!


 うう、気持ち悪い。なんなのよここ。共同墓地のあと? 香港に共同墓地なんてあったかしら。


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