核戦争以前の文明
「地表の放射能濃度は、現在30Sv/hです。地表に出るためには、指定者の許可証を提示した後、上級防護服に着替えてください」
俺は、地上清掃員という役職に就いている、なんの変哲のない男だ。
人類が第3次世界大戦の末期に行った大量の核兵器を投入しての戦争をした。
そのため、地上には人が住めなくなり、生き残りをかけ、人類は地下へもぐった。
俺の仕事は、人が住めるように地上を掃除する役目があるが、それ以外にも目的が、もうひとつあった。
俺は、AIに言われてから、上級管理者である自分の上司から受け取った許可証を、指定された赤枠の中にかざした。
「認証中…認証完了。上級管理者イザノバ・カルセットの許可証と認証します。どうぞ、中へお入りください」
俺が言われて扉の中へ入ると、1着だけ防護服が天井からぶら下がっていた。
それに着替えると、今まで着ていた服を、防護服の代わりに掛け、その首のところに洗濯バサミで止めた。
すると、服が上へ格納され、天井が閉じられた。
「どうぞ、先へお進みください」
そう言ったAIの先導で、地上へ俺は出た。
地上は写真で見たような青空ではなく、どんよりとした灰色の雲が頭上に渦巻いていた。
俺は服の中でため息を突きながら、灰が数センチにわたり積もった地上を歩き出した。
一歩歩くたびに、灰が舞い上がる。
それをかき分け、地上部隊を探した。
地上部隊は全てロボットで構成されている掃除屋で、こいつらを使い地上を掃除することになる。
だが、何か大きなものがあれば自動的に拾うこともできるため、俺はそれを第2の目的に使っていた。
「よう」
ロボットは別の作業員に先導される形で動いていた。
「おう、交代の時間か」
「そうだ、おつかれさん」
俺はそう言い合って、そいつからロボットの操縦ボタンを受け取った。
これを動かして、掃除を続けるのだ。
「今日は向こう側が入り口だ」
俺が指さしたのは、俺が地上へ上がったときに使った出入口だ。
ロボットは常に動いているため、入口の場所がわからなくなる時がある。
それを防ぐため、交代要員が出てきたところに帰るという決まりがあった。
そいつが地下への入り口へ入るのを見てから、今日も1週間前と同じように、掃除を始めた。
そうは言っても、俺の役目はロボットが壊れないように見張っているだけだ。
俺と同じように今地上に出てロボットと掃除をしているのは、数万人居ると言われている。
だが、それらと出会うことは無い。
俺は今日も一人でロボットを動かし続ける。
突然、ロボットがなにか大きなものを拾い上げた。
それは、看板だった。
灰を手で払うと、我々の勝利だという文面の看板だ。
「あった」
いわゆる戦争遺物と今では分類されている物、それが俺の第2の目的だ。
戦争当時の遺跡は、大半が灰の中へと埋もれたままだ。
それを一つでも拾いあげることが、俺の役目。
それをまとめ、上司に報告もしているが、その内容がどこまで伝わっているのか、俺は知らない。
でも、今日も、一つづつ、先人たちの遺構を見つけ出すつもりだ。