序章~ある兄妹の日常~
ご注意下さい、筆者初のミステリー(もどき)です。
かたちこそありがちなミステリーですが、実際は犯人の推理よりも、何故こんなことが起きたのかを考えるのがメインです、のであくまでもミステリー(もどき)だということを心にお留め下さい。
それでも楽しんでいただければ幸いです。
真っ暗な室内に静寂が満ちていた。
通常より高い位置にある窓から月明かりが差し込んでる以外に室内に明かりの類は無く、かろうじて部屋の内部の様相を認識できる程度の明るさだ。
部屋にはベッドと本棚の他には何も無く、ベッドには少女が横たわっている。
「・・・・・・」
少女は無言。
吐息の音すら漏らさず、少女はただ無言に不動であった。
瞳は開いているから寝てはいないのだろう。
ならば、この少女はこの殺風景な部屋で何をしているのだろうか。
「・・・・・・」
少女はまるで人らしい様を見せず、ともすれば死体かと錯覚しかねない。
少女の瞳は天井を向いているものの、何を映すでもなく虚ろな闇を宿していた。
「・・・・・・・・・?」
ふと、それまで死体然としていた少女が僅かに動きを見せた。
首を捻り、ベッドのむかいに目を向けたのだ。
そこには扉があった。
この部屋の唯一の出入り口である。
「・・・・・・どうぞ」
少女の喉から鈴を鳴らしたような音が漏れる。
その音に惹かれるようにして扉が動いた。
部屋の内側に向けて開かれた扉から淡い光が差し込んで、一人分の人影を浮かび上がらせる。
身長は170半ばくらいであろうか、彼もしくは彼女はすぐには部屋に入ってこずに、何やら扉の近くの壁をまさぐっている。
パチン
弾くような音と共に部屋に人工的な光が点った。
「やあ、元気にしてたかい妹殿は?」
彼であった影は、にこやかな微笑をその端正な顔に浮かべながら部屋に踏み入った。
「ええ、私はとても元気よ兄様。久しぶりに兄様が来てくれたのだもの。いつもの倍は元気になるわ。」
少女は彼の顔を視界に認めると、先程までの無表情は別人かと思わんばかりの微笑みを見せた。
「はは、可愛い事を言ってくれるね」
青年は、おもむろに少女の横たわるベッドの端に腰掛けると少女の額に掌を当てた。
「・・・熱は、ないようだね」
「もう、元気だって言ってるじゃない。それより兄様、いつもみたいに素敵なお話を聞かせて頂戴」
青年の掌の冷たさに心地よさを覚えながら、少女は兄に物語をせがむ。
それは、この兄妹にとっての日常。
「ああ、もちろん。今日もとっておきの物語を持ってきたんだ」
それが彼が来る理由。
「嬉しいわ、兄様。早く聞かせて?私とっても楽しみにしていたのよ」
それが彼女が待つ理由。
青年は、少女の額に当てていた手でそのまま彼女の髪を撫でながら穏やかな声で話し始める。
「これは、ある山の中にひっそりと建つ洋館での物語」