~陽の巻~
目の前で、一益が平伏している。
「どうしたんだ? 改まって」
少し離れて座っている火鳥も表情を失っている。
『話がある』と言い出したのは一益だ。
『火鳥様にも、聞いてほしい』とも言った。
「申し上げます」
一益が言った。
「わたくしは、甲賀の忍びでございます。
名を――カワセミ、と申します」
火鳥が息をのんだ。
俺も驚いた。
「ある任務を依頼され――尾張に参りました」
火鳥の体が、小さく震えている。
ひどく動揺しているようだ。
無理もないか……火鳥は一益と――なんというか――。仲が……良かった。みたいだったし……。
「誰に、何を、依頼されたのですか?」
震える声で、火鳥が尋ねた。
「申し上げることはできません」
一益が、火鳥の目をまっすぐに見つめ、力を込めて言った。
「わたくしは忍びでございます。
依頼者の名も、依頼の内容も、依頼者の秘密も、決して明かすことはありません。
それらは――墓場まで、持っていく所存でございます」
火鳥が、胸に手を当て、瞳を左右にさまよわせている。
「ですが――その依頼は終了いたしました」
「……ええ……」
火鳥が蒼い顔で頷いた。
「――当初の依頼内容とはやや異なる形での決着でございました。
それについて、依頼者がどう思っているか、知る由もありません。
ですが、わたくしの依頼者には、主人がおりました。
依頼の趣旨を吟味いたしますと、依頼者の主人にとっては、それなりに納得のいく結果だったのではないかと確信しております」
「……」
火鳥は蒼い顔のまま俯いた。
俺は言った。
「で。話とは?」
一益は俺を見た。
「俺は忍びだ。アンタに隠し事をした。嘘もついた。
だが、アンタに惚れた。
今後は、隠し事はしないし、嘘もつかないと誓う。
改めて、俺を召し抱えてもらいたい」
――なんだ! そんなことか!!
「もちろんだ!
一益が有能なのは、今までの働きで良く分かっている。
これからも俺のために働いてほしい!」
一益は平伏した。
「はっ! ありがたき幸せ!」
一益は、改めて火鳥を見た。
トーンを落とし、静かに、とても丁寧に語り掛ける。
「――火鳥様にも、ご承知おきいただきたく……」
火鳥は一益を見た。
「……わたくしに、それを止める権利はありませんので……」
火鳥の声は、今にも消え入りそうだ。
一益が改めて、俺の部下になる。
それって、めでたいことだよね?
――それなのに。
ねえ、
どうしてふたりとも、泣きそうな顔をしているの?




