~陰の巻~ 密書
父上
暖かいお言葉、確かに頂戴いたしました。
任務に失敗したくのいちに、そのようなご厚情を賜り、畏れ多いことでございます。
父上のおっしゃる通り、織口和颯に力はつきましたし、織口家本家の内部を、多少撹乱はいたしました。
ですが、父上より頂戴した任務『織口和颯を信勝に張り合えるほどの力をつけさせる』が達成できなかったのは、疑いようもない事実でございます。
葬儀の場における『織口和颯の奇行』。全ては、このわたくしの認識不足と、詰めの甘さが原因でございます。申し開きの言葉もございません。
わたしくは任務を『命に代えても遂行する』と申し上げました。
よってこの代償は、命をもって償う覚悟でございます。
信秀亡き後の、織口和颯周辺の様子についてお尋ねでしたので、報告いたします。
第二家老・平手政秀は、こっそり呼び出して少し脅してみたところ、あっさりと切腹いたしました。
これで情報漏洩の心配はございません。その点はご安心くださいませ。
織口和颯はいたく悲しみ、寺を建てて供養するつもりのようです。
カワセミが屋敷から消えました。
もともと尾張を離れる予定ではあったのですが、部屋に荷物が残っており、消え方が不自然です。
何か突発的な問題が発生したのかもしれません。
馬が一頭いなくなっているにもかかわらず、織口和颯がこの件について何も言わないのも不可解です。
織口和颯と軍隊は、信秀の生前と同じように訓練に励んでおります。
ですが、織口和颯の、朝の遠乗りに出かける時間が、明らかに遅くなっております。
以前は夜明けとともに出発していたのですが、最近では一時間、下手をすると二時間近くも厩の前でうろうろしているようです。
やはり、監視役であった父と第二家老を亡くして、気のゆるみが出ているのかもしれません。
わたくしの命は、既に父上の所有物でございます。いつ何時であろうとも、差し出す所存でございます。何なりとお申し付けくださいませ。 火鳥
追伸
カワセミが帰ってきました。
『祈禱代を払えば織口信秀を必ず延命させる』と豪語したという僧侶を連れてきました。
織口和颯は自分の発行した証文を取り上げて焼き捨て、僧侶を部屋に閉じ込めました。
『残念ながら、貴僧は、我が父の延命には失敗したようだ。
自分の命は延命できるよう、次こそはしっかり祈祷するように』と申しつけておりました。とはいえ、数日で釈放するつもりのようです。




