葬儀の後・和颯の屋敷
「どういうことだ!?」
屋敷に戻った俺は、喪服のままの政じいを、俺の部屋に呼びつけて問い詰めた。
「――今、織口家の中で争うことが、どれだけ無益か……少し考えれば分かるだろう!?」
政じいは、下を向いて唇を震わせた。
「……わたくしは……。
和颯様のお力になりたくて……」
「筋違いだ!
織口家に諍いを生んでどうする!?」
「ですが……!
和颯様は、もっと多くの人の上に立たれるお方!」
「見当違いだ!
もし仮にそうだったとしても、俺は、道理に反することは大嫌いだ!」
「しかし、和颯様――」
「くどいっ!」
俺は怒鳴りつけた。
「反省しろ。二度とするな」
政じいは、今にも泣き出しそうな顔で俺を見た。
――このくらいで……いいだろう……。
もう、二度と同じ過ちはしないはずだ。
俺は、政じいを残して立ち上がった。
扉を開けて廊下に出る。
部屋の外には、貞じいと火鳥が座っていた。
貞じいは、俺を見ると、深々と頭を下げた。
「ご立派でございました」
その言葉を聞いて、俺の涙腺がまた緩みそうになる。
「――父上は……許してくれるだろうか……」
ど派手な格好で葬式に行き、位牌に抹香を投げつけた。
貞じいは立ち上がって俺の手を握った。
「極楽で――この上なく、和颯殿を誇りに思っていらっしゃるはずでございます」
……そう……だといいけど……。
抑えきれなくなった涙が一筋、顔を伝った。
貞じいは、慈しむように俺を見た。
そして、少し離れた場所に座っている火鳥を、ちらりと見下ろし、俺の耳に口を近づけて囁いた。
「ですが和颯殿。火鳥様にはお気を付けくださいませ。
和颯殿は、騙されていらっしゃいます」
俺も火鳥を見た。
火鳥は真っ蒼な顔をして床に手をつき、くちびるを震わせていた。
葬儀会場で俺を見た時から、火鳥の顔色はずっと蒼いままだ。
床についた指先が細かく震えていて、それは絶対に絶対に演技なんかじゃないと断言できる。
今にも消えてしまいそうな儚さに、俺はこの場で彼女を強く抱きしめたい気持ちでいっぱいになる。
――できないけど。
先ほど政じいは、本家の家臣達に金品を配ったと言っていた。
金品の出所を、どんなに問い詰めても、政じいは決して口を割らなかった。
だが、まとまった金額を動かせる人物となると、限られている。出所はおそらく――火鳥。
政じいに頼まれて、嫌とは言えなかったのだろうか。
それとも夫である俺に、織口家で出世してほしいと思ったのだろうか。
火鳥が愛した一人目の夫は、美濃の名門、土岐家の跡を継ぐはずだった。
三年前、火鳥は俺を織口家の跡取りだと信じて嫁いできていた。
――あの時は……。騙して悪かったな。火鳥。
父上が決めた織口家の跡取りは、信勝なんだ……。
俺は、貞じいを見て、首を小さく横に振った。
違うよ、貞じい。
火鳥が俺を騙しているんじゃない。
俺が、火鳥を、騙したんだ……。
貞じいは、呆れたように顔をしかめて、大きくため息をついた。




