~カワセミの唄~ 和颯の屋敷
最後に鉄砲を肩に担いだ。
「さ。行きますか」
懐には、火鳥からの報酬がたっぷりと入っている。
しばらくは遊んで暮らせそうだ。
ちょっと名残惜しい気もするが、潮時だ。
あばよ。
――ん?
蹄の音が聞こえる。
早馬か?
俺は外を見た。
こちらに向かって、ものすごい勢いで疾走してくる馬がいる。
乗っているのは――和颯?
「一益―――っ!」
和颯は大声で叫んだ。
「どうしたんだっ!?」
俺は荷物をすべて放り投げ、火縄銃だけを掴んで外に転がり出た。
何があった!?
火鳥は無事か?
「俺の着物を出せ! 一番派手なやつだ。
それから髪を結い直す! 急げ!」
俺は動けなかった。
和颯は大声で何か言いながら、その場で喪服を脱ぎ捨てた。
すごい勢いで部屋に駆け込み、派手な着物を身に着けた上、赤い紐で髪を結いなおして出てきた。
破壊力抜群のその格好に、俺は開いた口が塞がらねぇ。
まさかその格好で、オヤジの葬儀に乗り込むつもりか!?
そんな事をしたら、正気を疑われる。和颯の信用は地に落ちる。
俺と火鳥が1年以上かけて仕込んだ任務を、一瞬で瓦解させるつもりなのか!?
火鳥が蒼くなって地団駄を踏む様子が目に浮かぶようだ。
あの火鳥に、そんな顔をさせられる奴がこの世にいるなんて想像すらしなかった。
火鳥には悪いが、俺はぞくぞくした。
――ほんっとに………
……面白れぇ男………!
ここでこの男を止めるべきだろうか、という考えが一瞬頭をよぎったが、俺はすぐにそれを否定した。
火鳥は俺に報酬を払い、俺は火鳥に別れを告げた。
俺達の関係はそこで終了した。
主を変えても、主の告げる任務に忠実であり続けなければならない俺たちにとって、任務終了とともに情を捨て去るケジメは、何より大切だ。
ずるずるとした関係はお互いを苦しめるだけだ。時に自らの命までも奪う。
火鳥も一流のくのいち。どこかで割り切りが必要なことは分かりきっているはずだし、だらだらとした馴れ合いも望まないだろう。
和颯は呆然としている俺に向かって、口を開いた。
「――行ってくる」
俺は思わずその場に両手と片膝をつき、頭を下げた。
「はっ! 行っていらっしゃいませ」
忍びの、最敬礼だ。
そうせずにはいられなかった。
乱れた髪に、乱暴な着付け。
それでも織口和颯の顔は、精悍で、凛々しく引き締まっていた。
今朝、屋敷を出ていった、17才のガキと同じ人物とは思えない。
覚悟を決めた男の顔。
それは今まで俺が見た他の誰よりも強靭で、高潔で――。
俺は――一生を捧げる主君を見つけた。




