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俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


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万松寺

 余裕を持って屋敷を出たので、寺にはかなり早い時間に着いた。

 大勢の僧侶たちが大広間に集まり、経を唱えたり葬儀の準備をしたりしている。

 昨日の僧侶がいたら問い詰めてやろうと、血眼になって探したが、見つけられなかった。

 ――さては、逃げたな……。

 汚いやつめ。

 泣いて許しを請えば許してやろうかとも思ったが……卑怯なやつは、腹が立つ。


 火鳥は部屋の隅で俯き、姿勢よく正座している。

 政じいは本家の家臣達の間を忙しそうに飛び回っている。

 貞じいはこぶしを握り締め、くちびるを引き結び、うつむいて黙っている。

 

 まだもう少し時間がありそうだ。

 大切な父上の葬儀で中座したくない。

 俺はもう一度用を足しておくことにした。


 廊下に出る。

 ふう、と息を吐いたとたん気が緩み、父上との思い出が次々とよみがえってくる。

 鼻の奥がツンと痛くなった。

 

 まずい。

 視界がゆがむ。


 俺は人に泣き顔を見らないよう、すぐそばの物置部屋に滑り込んだ。

 


 くそっ。

 止まれ。止まれ。止まれ。


 俺は男だ――泣くもんか。


 俺がここにいることに気付いていないのだろう。

 廊下を歩く気配がして、数人がコソコソと話す声が聞こえてきた。


「おい。お前はもう、決めたのか?」

「いや。まだだ。お前は?」

「やはり、信勝様だろう」

「やっぱり……そうだよな――」

「お前は?」

「俺は――和颯様につこうと思っている」



 ――何の話だ!?



 俺の感傷的な気分は一気に吹っ飛んだ。

 



 俺は物置部屋の壁にぴったりと耳をつけ、一言も聞き漏らすまいと集中した。


「信秀様は――跡取りは信勝様だとおっしゃっていただろう」

「だが、最近の和颯殿の活躍は目覚ましい」

「和颯様の軍隊の訓練を見たか?」

「ああ、見た。驚いた」

「那古野村では、夜、鍵をかけずに寝ると聞いたぞ」

「鉄砲を五百丁も購入したらしい」

「やはり、勢いがあるのは和颯殿か――」

「平手政秀どのも、熱心に口説いて回っているし……」

「いや、しかし信勝様も――」



 俺の思考が、超高速で回転し始める。


 コソコソと動き回る政じい。火鳥から預かったという包み。一益との密談。屋敷に漂う妙な気配――。

 いくつもの歯車がかみ合っていく。

 


 ――なんて愚かなことを!!



 駿河の今川は、西へ西へと勢力を広げている。先日とうとう三河を手に入れた。次は尾張。

 今も、虎視眈々と尾張侵略を狙っているはずだ。


 父上が亡くなった今、最も大切なことは、俺たちが一致団結して今川に対抗することじゃないか!

 尾張の内部で争っている余裕など、あるはずもない。


 それなのに、俺の知らないところで派閥争いが起きている。

 こんな不毛な派閥争いは、今すぐ中止させてやる!

 だが、どうやって――?



 考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。考えるんだ。



 考えて、考えて、考えて。

 はっと気がついた。

 俺は唇をかみしめ、顔を上げた。

 

 誰にも見つからないよう、そっと裏口から外に出る。馬にまたがり全速力で、自分の屋敷へと戻った。

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