夜明け前
~カワセミの唄~
『火鳥がまだ不調だったら、どうするべきだろうか』
俺の心配は杞憂だった。
飛び起きた瞬間から、火鳥は敏腕のくのいちの輝きを放っていた。
俺はほっとした。
~陰の巻~
「おい。起きろ……。
火鳥――起きろ」
耳元でささやかれたかすかな音が、意味を持った言葉に変わる。
火鳥はがばっと跳ね起きた。
暗闇。
その中に、カワセミの気配がある。
まだ、夜明け前だ。
暗い。何も見えない。
火鳥は耳をすませた。
屋敷が、動揺している。
歩き回る足音。
ひそひそとささやかれる声。
カワセミの声が低くささやいた。
「織田信秀が死んだ」
――やはり。当初の予測より、死期が早かった。
……最後に、資金をばらまくことができてよかった。
「俺は、葬儀の間に立ち去るつもりだ」
カワセミに依頼した任務は『織口和颯を、信勝と張り合えるほどに強くする事』だった。
信秀が死んで、織口和颯と信勝の争いの火蓋は切って落とされた。
ワセミの任務はここで終了だ。
任務終了後はできる限り速やかに立ち去る。忍の鉄則だ。
「先に別れを言いにきた」
「そう……」
寂しくなる。
火鳥は姿勢を正した。
闇の中に息づく気配に向かって、こころから精一杯の言葉を紡ぐ。
「カワセミ、ありがとう。
あなたに来てもらえて、本当に助かったわ」
任務のことも。
各務野が死んだ時、支えてくれたことも。
――でも、もう大丈夫。
「――次は、どこへ行くの?」
「まだ決めてねぇ」
「美濃に来るなら――父に話をつけておく」
「ありがとよ。そのときは連絡するぜ」
火鳥は頷いた。
「――死ぬなよ」
「……カワセミもね……」
カワセミが、ふっ、と笑った気がした。
「じゃあな。あばよ」
カワセミの気配が消えた。




