火鳥の部屋
火鳥の部屋の前で、立ち止まる。
今度は人の声がしないか、慎重に確かめてから声をかけた。
「和颯だ。入ってもいいか?」
やや間があって、声が答えた。
「――どうぞ。お入りくださいませ」
俺は扉を開けた。
火鳥の部屋には蝶が舞っていた。
この部屋の日当たりはあまり良くない。
薄暗い部屋の中で舞う蝶は、幻想的で美しかった。
――ああ。一益は、これを火鳥に見せたかったのか。
火鳥は座って、部屋の隅で動かなくなった蝶を見つめていた。
「――羽が傷ついた蝶は、飛べなくなって死んでしまいました」
各務野を失った自分と、羽が傷ついた蝶を重ね合わせているのだろうか。
「死にたいのか?」
「死にたくても死ぬな、と言われました」
――一益に、な。
だがその一点においては、一益と同意見だ。
「火鳥は、蝶とは違うだろう」
「――そう、でしょうか」
ぜんぜん違うじゃないか。
蝶とも、花とも、他の誰とも違う。
どうしたら分かってもらえるのだろう。
俺は尋ねた。
「――火鳥という名前は、誰が付けたんだ?」
消え入るような声。
「――父上、が……」
「そうか。良い名だ」
「……そうでしょうか……?」
火鳥は目を伏せ、零れ落ちるように言った。
その姿が今までに見たことがないほどに儚く哀しげだったので、俺は焦る。
「火鳥とは、鳳凰の事だろう?
鳳凰は死なない。
死ぬ前に自らの体を焼き尽くし、炎の中から新しく生まれ変わるという。
――道三殿が付けた名に、恥じないように生きればいい」
火鳥は儚げな瞳のまま俺を見上げた。
俺は笑いかけた。
「立て。火鳥。
散歩だ――。外に出よう」




