その後
足早に廊下を歩く。萌の部屋の前を通る。
侍女達の興奮した甲高い声が廊下にまで溢れている。
「各務野」「伊賀」「忍」「暗殺」
そんな言葉が聞こえてくる。
そうだ。萌!
萌のことをすっかり忘れていた。
各務野が伊賀の忍びだったと聞いて、一番動揺しているのは萌じゃないか。
萌の兄を殺したのが各務野だったとしたら――。
俺は部屋の中に向かって声をかけた。
「和颯だ――入ってもいいか?」
たちまち部屋の中は静かになった。
一瞬遅れて、部屋の扉が開く。
部屋の真ん中に萌がいた。
萌は俺を見ると、きゅっ、とくちびるを結んだ。
ここに来たばかりの時はまだ小さかったのに。
ずいぶんと背が伸びたみたいだ。
もしかしたらもう、身長は火鳥より高いかもしれない。
「皆は、下がって」
萌は静かに言った。
蔦が立ち上がり、部屋を出た。他の侍女も後に続いた。
「萌――」
「なんです?」
萌はとげとげしく答えた。
俺が、すっかり萌のことを忘れていたから怒っているのか?
そりゃ、怒るのは当然だけど。
俺は俺で、いろいろと忙しくて……。
「各務野の、事だけど」
「それが何か?」
「いや。その……。
各務野が、伊賀の忍だったって聞いて――動揺しているんじゃないかと……。
萌の、兄上の暗殺に、絡んでいるかもしれないし――」
萌は怒ったように口を開いた。
「萌の兄上は、殺されたのではありません。
以前にもお話ししたはずです。
各務野が伊賀の忍だったとして、萌の兄上を殺すのは不可能です。
ですから、各務野の件は萌には無関係です」
はっきりと言い切った。
「そう? ならいいんだ。
萌が、動揺しているかと思って。
だから。そうならまた、一緒に馬にでも――」
萌はキッ、と俺を見た。
目には涙がたまっていた。
「見損ないましたっ!」
萌は言葉を投げつけるように言った。
「和颯兄さまは、それで良いのですか!?」
え?
何のこと?
俺が唖然としてると、萌はかみつくような視線で俺を睨みつけた。
そのくせ今にも泣きだしそうだ。
「和颯兄さまが誘うべきお相手は、萌ではありません。お引き取り下さい」
冷たく言い放つと、ぷい、と横を向いてしまった。
俺はすごすごと萌の部屋を後にした。
部屋に戻り、天井を見て過ごした。
あー。もやもやする。
どうすれば良いんだ。
貞じいは返事もしてくれない。
萌には拒絶された。
一益に相談する勇気は……さすがに、ちょっと、ない。
となると、残るのは。
――そうだ。
政じいに相談してみよう。
俺は勢い良く立ち上がった。




