10、織口 信秀 前日 ~陽の巻~
今日も、父上を見舞いに本家に行った。
父上の容体は、目に見えて悪化している。
俺の叔父上や、腹違いの兄弟たちが尾張中から集まってきている。
「和颯、今夜はここに泊っていきなさい」
母上が言った。
見るからに高そうな袈裟を着た僧侶が、温和な笑みを浮かべて俺に話しかけた。
「特別な御祈祷をして差し上げましょう。
少々値は張りますが――ご尊父様の命根を、あと10日はこの世に繋ぎ留め置くこと、拙僧がお約束致します」
母上は首を小さく横に振った。
だが、俺の目には、僧侶はとても嘘をついているようには見えなかった。
俺は言い値の証文を書き、僧侶に手渡すと、安心して自分の屋敷へ戻った。
帰宅後、庭で弓を撃っていたら、弦が切れた。
確か俺の部屋に、古い予備の弦があったはずだ。
もったいないから、あれを使おう。
俺は部屋に戻ることにした。
廊下で、政じいに出会った。
小さな包みを持って、ホクホクした顔で歩いている。
「おや、和颯様」
政じいは俺を見つけると、バツが悪そうな顔をして、包みを背中に隠した。
「――それは?」
「ああ、これは――」
政じいは視線を泳がせた。
「火鳥様からの、お預かり物でございます」
各務野が死んでから、火鳥はずっと、あの日当たりの悪い部屋に閉じ籠ったきりだ。
俺は眉をひそめて政じいを見た。
政じいは、ますますきまりが悪そうな顔をした。
「――先日、火鳥様に手拭いをお貸しいたしましたのでな。
その、お返しです」
……それって、けっこう前の話だよな……。
「ふうん……」
なら、そんなにコソコソする必要はないんじゃないか?
――それとも何か、後ろめたいことでもあるのか?
「では、失礼いたします」
政じいはそそくさと立ち去った。
……気になる。




