~陽の巻~
早朝。
今朝もすっきりと目が覚める。
顔を洗おうと廊下に出た。
――あれ? 今、かすかに――
背中にゾクゾクっと冷たいものが走る。
いやいやいや。
ない。
ないないない。
そういうのは、本当に勘弁してほしい。
だって……!
今は朝だ!!
幽霊が出るのは夜中だしっ……!
もう一度耳をすます。
今度ははっきりと、女の泣き声が聞こえた。
この声は。
……火鳥……?
俺は、火鳥の部屋の前に、そっと歩み寄った。
わずかに扉が空いている。
間違いない。泣き声は、この中から聞こえる。
俺は静かに扉を開けた。
夜具には生気のない顔の各務野が横たわっていた。
枕元で背筋を伸ばして座っている火鳥が、すすり泣いていた。
――あ……各務野……。
死んだんだ……。
確かに、最近は調子が悪そうだった。
だが次の瞬間、俺の目は、ある一点に釘付けになった。
各務野の体の上に載っているのは――脇差!?
「おい。火鳥――。
――これは……どういうことだ……」
声が、震えた。
身に着けることができる刃物は、性別や身分によって細かく決められている。
女は、脇差は持たない。
もしも侍女が脇差を持っていたとすれば、その女は――。
「まさか!
――忍! だったのか!?」
思わず大声が出た。
西の廊下の奥で、ガッ、と扉が開く音が聞こえた。
バタバタと足音がして、火のような勢いで一益が走ってきた。
一益は転がるようにして部屋に駆け込み、火鳥を背中にかばうように片膝をつくと、自分の刀に手をかけ、ものすごい形相で俺を見上げた。
「え?」
俺は一益の剣幕に驚いた。
「え?」
一益は、俺が驚いたことに、驚いているようだった。
「え?」
なんで、刀なんか抜こうとしてるの?
「え?」
一益は、自分が握った刀の柄を見下ろした。
「え~~~っと……」
一益が、部屋の中に目を泳がせた。
俺の他にここにいるのは。
火鳥、各務野、一益。
一益は目を泳がせたまま、上ずった声で尋ねた。
「あ~……。
え~っと……。
和颯殿?
どこかに……。
『しのび』がいたのですか?」




