~陽の巻~
何度あくびをかみ殺しただろう。
雅楽には興味がない。
そもそも、熱田神社の神様に奉納する舞なんだから、わざわざ俺が見る必要はないんじゃない?
眠い。だるい。つまらない。
――退席しよう……。
俺が腰を浮かそうとしたら、政じいが睨みつけた。
途中で席を立つな、という事らしい。
え〜〜……。
見かねた様子の火鳥が、小声で舞の解説を始めた。
「左が、迦陵頻。右が胡蝶です」
ふうん。そうだったんだ。
だから、背中に羽をつけて踊っているのね。
俺は座り直した。
火鳥はほっとしたように続けた。
「迦陵頻伽は、極楽に住む半人半鳥の鳥です」
迦陵頻伽なら知っている。
俺は半人半鳥の、天女だと教わった。
女の顔と、翼のある体。
いずれにせよ、極楽在住だ。
とにかく美しい声で唄うらしい。
「右では、春に舞う蝶を演じています」
雅楽では、右舞と左舞を交互に踊ることが多い。
番舞というらしい。
「なあ、どうして迦陵頻伽と胡蝶がセットなんだ?」
「さあ。どちらも羽があるからでしょうか」
「大きさとか、住む場所とか、種族とか、いろいろ違いすぎるだろう」
右舞と左舞は対になっている。
つまり、同等ということだ。
迦陵頻伽は天女。胡蝶は虫だ。
天女と虫が同等っていうのは、納得がいかないぞ。
「確かにそうですが――。
理由は分かりません。
ですがとにかく、迦陵頻伽と胡蝶が番のようです」
ふうん。
迦陵頻伽と胡蝶が、ねぇ。
『ひょっとこ』と『おかめ』がセットなのと同じ原理なのか……?
まあ、どうでもいいけど。
あ~……。
――早く終わんないかなぁ……。




