64/205
~陰の巻~
織口信秀の顔色は悪かった。
かつて、あと一歩のところまで父を追い詰めたこともあるという名将の面影は、もはや、そこにはなかった。
信秀が、火鳥の隣にいる織口和颯の前で足を止めた。
信秀の手が、織口和颯の肩に置かれる。
その指先から、火鳥は目が離せない。
信秀の手は黒っぽく変色している。
爪が変形し、割れている。
――これは……。
鉱山で、金と共に産出されるという『地の毒』の症状なのでは――?
誰にも気づかれないよう、少しずつ、長期にわたって盛られた毒は、体の奥底に溜まり、どのような解毒剤をもってしても体外に排出できないと聞く。
『織口家を、頼む』信秀は、たしかにそう言った。
もしや、自分の死期を悟って……?
火鳥は、動揺を押し殺した。
あと1年以上かけて、ゆっくり育て上げればいいと思っていた。だが。
――思ったより、時間がないかもしれない。




