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≪甲賀の里・過去≫ ~陰の巻~ 火鳥・5才
ひもじい。
小屋の外のゴミ捨て場を見つめる。そこにはよく、何かが捨ててあった。
小屋の中の音に耳をすます。
――小屋に住む者全員の、声が聞こえる。
楽しそうに喋って、笑っている。
一度、ゴミ捨て場を漁っているところを、黒トカゲに見つかった。
こっぴどく殴られた。
だから、小屋に近づく前にはあたりに気を配る。
常に耳は澄ませておく。
いつでも逃げられるように準備しておく。
音を立てないように慎重に……。
骨の周りに身が残っている魚と、かじりかけの餅を見つけた。
こんなのを捨てるなんてもったいない。まだ、食べられそうなのに。
カゲロウは、餅と魚の骨を握りしめ、木に上る。
餅をかじって空を見上げた。
星が、光っている。
カゲロウの口から唄が零れる。
唄っている間は、全ての音が消える。
思いつく限りの歌を唄った。
ほう。と息をつく。
一瞬遅れて、小屋の中のざわめきが戻ってくる。
自分はどうして、ここにいるのだろう。
何のために、ここに存在するのだろう。
物心ついたときにはここにいた。
ここ以外の場所は知らない。
でも、何かが間違っている。
このままではいけない、ということだけは分かっていた。




