8、熱田 ~陽の巻~ 回想・和颯4歳
むせかえるような熱気に、びっくりする。
ひっきりなしに行きかう、たくさんの人。すれ違うとき、人と人の肩が触れる。船乗り、商人、詐欺師、用心棒。
品物の値段をめぐって口論する人の声。馬の蹄の音。手押し車の作るわだち。
おおごえ。どなりごえ。船から降ろされる、たくさんの積み荷。
スリ、恐喝、泥棒、人攫い。
「ぼーっと歩かないでください!」
秀じいに言われてはっとする。
「カモにされますよ!」
ボクは反射的に懐に手を入れた。
良かった……盗まれていない。
ボクは父上を見上げた。
父上がボクを見下ろした。
父上の手が、ボクの手を握っている。
父上は強く、父上の手は大きく、父上の背は高く、父上の背中は広い。
「どうだ? 凄い熱気だろう」
「はい! これほどとは思いませんでした!」
父上がボクの目を見て自慢気に、にやりと笑う。
柴田勝家に手をひかれ、ボクと父上の後ろを歩いている信勝の、うらやましそうな視線。
「運搬とは、すなわち海運だ」
知ってる。さっき、政じいから教わった。小さな船一つで、馬三十頭分の荷物がいっぺんにに運べる。
馬に乗せられないような重たい物や大きな物でも、船に乗せればどこまででも運べる。
「ここは、日本中から、あらゆる品物が運び込まれる。
人が集まるところに、カネが生まれる。
熱田が生み出すカネが、俺の軍資金だ!」
脇の下に大きな手が差し込まれ、体がふわりと浮き上がる。
父上の頭が目の前に来て、視界が急に開けた。
やったぁ! 肩車だ!!
熱田の港の活気が、遠くまで見渡せた。
船乗りのおじさんが、船をつける順番を巡って、怒鳴りあっている。
人相の悪い男が、すれ違いざまに若い女の人の手を掴み、草むらに引っ張り込もうとしている。
むき出しの脇差を持った男が唾を飛ばして誰かを脅しつけている。
刺青の入った男が、突然屋台を蹴飛ばし、商品が道に散乱する。
突然喧嘩が始まり、砂埃が舞う。
あふれるほどの仕事。|ありとあらゆる《見たことも聞いたこともない》商品。公然とあるいはこっそりと行われる犯罪。集まる富。堅気とは思えない男たち。暴力。それらが交じり合い、混沌とした熱気となって、辺り一帯を覆っている。
父の声にも熱がこもる。
「和颯! よく見ておけ!! ここが熱田だ!!」




