当日 ~陰の巻~
その日は屋敷の中が、朝から騒がしかった。
火鳥は各務野の肩に手を回して助け起こす。そのまま、夜具の上に座るのを手伝った。
「各務野……大丈夫?」
「ええ。お見苦しいところを……」
「いいのよ。立てる?」
着替えた各務野を支えて歩き、座敷の縁側に座らせる。
火鳥も隣に腰を下ろした。
火鳥の隣に萌が座り、侍女や使用人たちも集まってきた。
みんな、ワクワクした気持ちが顔に出ている。
珍しく蔦までが、浮足立っている。
しばらくすると太鼓と鐘の音がして、仮装大会が始まった。
鬼に仮装している者が多いようだ。
黒鬼、赤鬼、青鬼が、ぞろぞろと庭に出る。
弁慶、鳥の鷺に仮装している者もいる。
カワセミは、餓鬼だ。――やだ。本物みたいじゃない。
みな、気合を入れて仮装をしている。
踊りも上手だ。屋敷の皆も、いつの間にか集まってきた那古野村の皆も、大喜びで喝采を送っている。
普段はいかつい顔をして肩で風を切っている盗賊たちも、まんざらでもない様子だ。村の若者たちが飛び入りで踊りの輪に入った。笑っている。
輪がどんどん広がっていく。
盗賊たちも、村人たちも、みな楽しそうだ。
ふと火鳥は思った。
織口和颯はどうするのだろう?
ここにいるみんなのボスで、
この仮装行列の主催者だ。
まだ出てきていない。
もう既に、皆はこんなに盛り上がっている。
中途半端な仮装をして登場したら、せっかくの盛り上がりに水を差すことになる。
でも、ここまでで相当にレベルが上がっている。
――ぶっちゃけ、これはマズいのでは?
そわそわしながら、火鳥は周りを見回した。
庭の隅の方で、軽やかな鼓の音がして、わっと歓声が上がった。
頭から白い布をかぶった女が、鼓を持って登場した。
天女だ。
まるでたった今、天から舞い降りてきたような。
軽やかな鼓の音。
美しい衣装。
しなやかな舞。
頭からかぶった布のせいで、顔は見えない。
それが余計に、彼女を美しく見せる。
――あの動きは、百姓ではない。
火鳥は周りを見回した。
自分はここにいる。隣には萌もいる。
侍女たちも――みんな揃っている。
というか、土岐家の侍女にそんなにノリの良い者はいないはず。
じゃあ。
あの女は誰?
火鳥は目を細めて女の動きを注視する。
無駄のない動き。一つ一つの動作が美しい。
かなりの稽古を積んだに違いない。
女は踊りながら、頭にかぶった布をするりと取った。
え?
え?
え?
ええっ!?
えええええええええっ!!!!?
おしろいを塗り、紅をさし、妖艶な笑みを浮かべているのは――
織口和颯っ!!!
ええええええっ!?
うそ――でしょっ?
ほんとに!!!?
女装してるっ!!!!




