馬上
「なあ、和颯殿。俺も気になってることがあるんだが。
聞いてもいいか?」
「うん。何でも聞いてくれ」
俺も、聞いたしな。
「俺は、一益とは違うからな。何でも答える」
「ほほう」
一益は楽しそうに目を細めた。
うわっ! 絶対に悪いこと考えている。
――調子に乗って『何でも答える』とか言うんじゃなかった!!
「じゃあ、聞くが――」
一益は俺を見た。
「――あんた、火鳥様とはうまくやってんのか?」
俺はむせ返った。
ゲホゲホとせき込む俺を、一益は楽しそうに見ている。
やめてその!
上から目線!!
――でも、一益には初日に見破られちゃったしなぁ。
気が付くと俺は、祝言の夜に寝室で起きたことも含め、なにもかも正直に答えていた。
もしかしたら、一益に聞いてほしかったのかもしれない。
「俺は最初、火鳥は斎藤道三の放ったくのいちなんじゃないかと疑っていた。
政じいと秀じいは、今でもそう信じている。
――でも俺は。
誤解だと思っている。
火鳥の過去の夫が次々と死んだのは事実だ。
でも誰か、別の黒幕がいるはずだ。
火鳥は――今でも。
死んだ萌の兄を愛してるんだ。
――……俺、なんかじゃなく……
俺のこと、眼中にないのは分かってる……。
それでも……火鳥は……。
本当に美しい心の持ち主で……。
彼女を想うだけで胸が苦しくなる。
だけど――。
俺が無理やり迫って、次こそ本当に自害されたらと思うと……」
一益は目を大きく見開いて俺を見つめ、次にゲラゲラと笑い、最後に俺の肩をバンバン叩いた。
「あああっ! お前! ほんっとに!!
かわいそうなヤツ!!」
「うるさいなぁ。一益には関係ないだろう」
「関係ないはずないだろう!
俺はお前のこと、嫌いじゃないぜ」
ひとしきり笑うと、一益はピシッと姿勢を正して言った。
「俺はお前と出会ったあの日、そのまま帰ることもできた。
だが、ここに留まることを選んだ。
これは、俺の意思だ。
だから、この件は俺に、関係、大ありだ」
……なんか、理論が破綻してないか?
一益を召し抱えた件と、火鳥の件は、全くの別件のはずだ。
だが、一益は続けた。
「――よし、俺が力になってやる!
俺のことはお前の兄貴だと思えと言ったよな?
どーんと任せておけ!」
一益はさらに続ける。
「側室を持てばいいだけの話だろう?
探してやる。
どんな女が好みだ?」
「正直に言うと――よく、分からない」
「じゃあ、誰でもいいってか?」
「そういうわけじゃないけど……。
前は分かっていたのに、よく分からなくなってきたっていうか……。
――少し前、政じいが、側室候補を何人か、連れてきたことがあった」
「おうっ! それを早く言え!
で? で? どうだった?」
おい、食いつきいいな。
恋バナ好きか?
「――なんか、誰も、ピンとこなかったというか……」
正直みんな、ぱっとしなかったというか……。
確かに昔は、あんな女と暮らせれば良いなと思っていたはずなんだけど……。
一益は、今度は俺の背中をバシバシたたいた。
「おまえ、ほんっっとに! かわいそうなヤツ!!」
痛ぇ……。
分かってるよ。
俺の側室になってもいいと言う女を探してくるのが、どれだけ大変だったかなんて。
「よし! 一年――いや、半年待て。
側室希望の美女が列をなして、お前のもとに押しかけるようにしてやる!
そのためには、まず――強い軍隊だ」
一益は馬を停めた。
俺たちは漆山のふもとに着いていた。
一益は馬から降りた。
自分の乗っていた馬を近くの木に繋ぐ。
肩から担いでいた袋から、丁寧に鉄砲を取り出し、手に持った。
こちらを向いたときには顔つきが変わっていた。
「和颯殿。ご準備はよろしいでしょうか」
声の調子まで変わっている。
「――お、おう」
俺も自然と背筋が伸びる。
一益は俺の馬のくつわを取った。
ここからは歩くつもりらしい。
「では、参ります。
ご安心を。
すべてこの一益に、お任せください」




