〜陽の巻〜
「和歌には興味がないとおっしゃいましたが……」
一益が、ぐいっと身を乗り出した。
俺の目の奥をじっと見つめる。
「では、強くなる事には?」
――え?
俺は、息をのんだ。
むせかえるような香の匂い。
頭が、ぐわんぐわんする。
俺の視界には、一益の目だけが見える。
まるで、夢と現実のはざまをふわふわとさまよっているようだ。
周りの音が遠ざかる。
一益の声だけが、頭に響く。
「強くなりたいと、思ったことはありませんか?」
――ある……。
「強くなりたいと、思いませんか?」
――なりたい。今より、強く。
だから、誰よりも努力して、誰よりも鍛錬して――。
でも、俺は……。
甘ったるい匂いが、俺の思考力を奪う。
一益の声が、ぐるぐるまわる。
「和颯殿ならなれます。今よりも、ずっと強く」
――俺ならなれる。強くなれる。
今よりも、ずっと強く。ずっとずっとずっと強く。
「必ずなれます。
わたくしが――お手伝いいたします――」
カタン。
乾いた音がして、俺ははっとした。
さっきと同じ。俺の屋敷の座敷の中だ。
火鳥が満足そうに微笑みながら、香炉を片付けている。
さっきのは、香炉に蓋をする音だったようだ。
ドヤ顔の一益が、俺を見て言った。
「よろしくな。和颯殿。
俺のことは、お前の、年の離れた兄貴だと思ってくれ」
あれ? 俺、一益を召し抱えるって言ったっけ……?
「部屋は狭くてもいい。だが、相部屋は嫌だぜ」
火鳥が俺に向かってにっこりと笑いかける。
「西側の、物置部屋が良いでしょう。後で片付けておきます」
え? え? え?
話が早すぎない?
一益は、俺の考えを見透かすようにニヤッと笑った。
「心配すんな。こう見えて、俺は、きっちり働くぜ。
――アンタに、損はさせねぇ」




