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俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


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~カワセミの唄~

 庭で鉄砲を撃ってみせたら、ガキみたいに目を輝かせていたくせに、「欲しいか?」と聞いたら急に腰が引けてきやがった。

 自分で勝手に自分の檻を作って、小さくまとまるタイプか。


 俺は目の前にいる奴を見た。10代後半にやっと乗ったから乗らないか、といったところか。

 自分だって、まだまだ尻の青いガキのくせに。小っちゃくまとまっちまって。つまんねぇ男。


 まあいい。

 那古野で一番でかい屋敷の庭で、100発もぶっ放してやったんだ。音は一帯に響き渡っている。


『カワセミだ。来てやったぞ』

 俺のメッセージは、既に、このあたりのどこかに潜伏しているカゲロウに伝わったに違いない。

 あとは適当にゴネて時間を稼いでから、この屋敷を出ればいい。

 用事があるなら、カゲロウの方から接触してくるだろう。

 それすらもできないほどの腕なら――あとは、知らん。


 ちなみに、鉄砲を撃つのにカネがかかるのは事実だが、さすがに五十両はぼったくりだ。

 カネをとるのが目的じゃねぇ。しばらくここでゴネるのが目的だ。

 安い金額設定をして、あっさり支払われちまったら困るので、ふっかけてやった。

 それに、玉代だけならぼったくりだが、俺の技術料込みなら格安だ。



 おや。追い出されそうだ。

 そろそろ潮時か。

 おい、カゲロウ。この俺様を待たせるなよ。

 

 ふと不安がよぎる。

 この屋敷を出た後のことだ。

 どこで、いつまで待つべきか。

 待っていても来なかったらどうする?

 やはり……探しに行くべきだろうか?



 ――いや、むしろ会わずに帰るべきだ。


 多分――辛くなる。 



 廊下から女の声が聞こえるくらいは想定内だったが、コイツが発した言葉は想定外だった。

「火鳥」

 確かに、そう言った。


 へえ。

 実在するんだ。


 俺はてっきり、都市伝説のたぐいだと思っていた。



 ※※※※

 

 伊賀の里が誇る、伝説のくのいち『熊蜂(くまばち)』。

 決して一人の君主には仕えようとせず、単発の仕事だけを請け負う。

 常に単独で仕事をこなし、絶対に不可能だと言われていた任務を次々と成功させてきた。

 数えきれないほどの(しのび)が弟子入りを志願したが、全員10日と持たずに破門になった。


 その『熊蜂』が、表舞台から消えた。


 普通に考えて、任務に失敗して死んだのだろう。

 だが、伊賀のやつらの都市伝説では、『熊蜂は弟子を取り、弟子につきっきりで教育している』ということになっている。

 まあ、伝説の敗北を認めるのは苦しいからな。夢を見るのは自由だ。



 で、その弟子の名が『火鳥』だ。


 生まれも育ちも不明のくのいちで、一切の感情を持たずに、淡々と任務をこなす。

 初めての暗殺任務に臨んだ時には、火鳥が返り討ちにあって殺されるのを恐れた主人が、護衛のための(しのび)まで雇ったとか。

 その時、火鳥は指一本動かさず、表情一つ変えずに相手を殺してみせ、天井裏で一部始終を見ていた忍にすら、その方法が分からなかったという。


 もはや、どっから突っ込んでいいかも分からないくらいの都市伝説。

 かわいそうだが、「くのいち」は使い捨ての道具だ。その「くのいち」のために、わざわざ主人が護衛を用意するとか、どう考えても無理があるだろう?


 夢を見るのは自由だ。

 勝手に夢見てろ。


 俺は夢は見ねぇ。

 そんな暇があったら腕を磨く。

 俺は現実主義者なんだ。


 ※※※※



 だから、このつまんねぇ男が「火鳥」と言ったのには驚いたが、入ってきた女を見たときはもっと驚いた。

 だってそいつは――間違いなく――カゲロウだったからだ。


 カゲロウは手をついて頭を下げた。

 ほう。

 俺は驚いた。

 所作が、美しい。

 武家の娘に化けるくのいちは多いが、しっかり見れば動きで分かる。

 百発百中で見分ける自信があったが……。

 カゲロウだと知らなかったら、生粋の武家の娘だと断言していた。

 ――腕を、上げたな。


「織口和颯の妻、火鳥でございます」

 なるほど。そういう設定か。


 よく考えれば、同じ名前だからといって、同じ人物とは限らない。

 無事に再会も果たせたことだし、一度退散しよう。

 詳細は、あとから、誰もいない場所で、ゆっくり話せばいい。



「滝川一益。求職中だ」

 今、決めた名前だった。

 俺は別れの言葉を考えて、立ち上がろうとした。


 ところがカゲロウは、俺の前に湯呑を置いた。


 ――マジかよ――


 これを飲み終わるまで、帰るな。という事か。

 それも「夫」のいる部屋で?


 ――心臓に毛ぇ生えてんのか?



 カゲロウは、香炉に火までつけた。

 甘ったるい匂いが漂いはじめる。


 俺たち忍は、服に匂いがつくのを嫌う。敵の目から隠れても、匂いで居場所が知られるからだ。

 そんな事も分からないのだろうか。

 腕を上げたと思ったのは気のせいか。

 それとも――


 ――匂いが消えるまで、ここにいろ――

 しばらく、ここに留まれというメッセージか?



 だが、俺はつまんねぇ仕事はしない主義だ。

 カゲロウには借りがあるから、来るには来てやったが、つまんねぇ依頼なら遠慮なく断ってやる。

 

 くのいちからの依頼でよくあるパターンといえば男だ。

「任務で結婚して一緒に暮らしているうちに、本気で惚れたから足抜けさせてくれ」

 そんな依頼だったらがっかりだ。



 「盗賊」というキーワードを出してきたのは、カゲロウだった。

 つまんねぇ男が食いついた。

 へえ。武士のくせに、盗賊に興味あるのか。

 変わったやつ。


 だが勧誘は失敗したらしい。

 いやいや、断られねぇだろ、普通。

 よっぽど無茶苦茶な条件を出したのか?

 ふと見ると、カゲロウが着物のほこりを払っていた。

 ――着物か――

 仲間になりたいなら、相手と同じような服装をする。

 忍にとっては、基本の「き」だ。


 だが「(しのび)」と言いかけたら、カゲロウが湯呑をひっくり返した。

 なるほど。

「忍であることは隠しておけ」か。


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