追跡
「織口和颯が、今日死ぬかもしれない。
ちょっと、行って、止めてくる!」
各務野に告げる。
「何のために死ぬつもりでしょうか?」
各務野も立ち上がった。
「分からない」
「分からないし、許さない」
どこまで任務の邪魔をすれば気が済むのか。
「今、あの方に死なれると困ります」
各務野が言った。
「分かってる」
代替可能な人材がいない。
「何が何でも、止めるから」
火鳥は屋敷の外に出た。
追跡だ。
厩から出る蹄の跡を追う。
各務野も一緒だ。
跡はくっきりと鮮やかに、那古野村へ向かっている。
那古屋村の入口で、蹄の跡が極端に追いにくくなった。
馬の足跡の上を、大勢の人の足跡がかき消しているからだ。
そういえば、村に人がいない。
火鳥は人の足跡を辿った。
ところどころ、蹄の跡も見える。
――同じ方角へ進んでいる?
途中で馬だけ別の村へ続く道に。
村から人が集まって。
馬と一緒に先ほどの人の足跡と合流する。
再び、馬だけ別の道に。
どんどん人が増えて、合流していく。
「火鳥様、この方角は……」
各務野が言った。
まさか。
――あまが池?
あまが池の周りを、数百人の農民が取り囲んでいる。
皆、泥だらけだ。
彼らが池の周りを何重にも取り囲んでいるため、火鳥は池の水面を見る事すらできない。だが、彼らが集まっているのは、大蛇退治のためであることは明白だった。
火鳥は人垣の一番後ろについた。
前にいる人の背中しか見えない。
はるか前方。池の方から織口和颯の声がした。
「分かった。後は、俺が行く」
――待って。どこへ行くの?
火鳥は、なんとか前へ行こうとした。人と人の間に割り込もうとする。しかし、ぎっちりと人が詰まっていて、ちっとも割り込めない。
織口和颯の声。
「――行ってくる」
だから、どこへ?
焦り。
とうとう火鳥は声を上げた。
「おねがい、ちょっと通して」
前にいた男は、しかめっ面で振り返った。
「何言ってんだ。俺だって見えなくて……」
だが、火鳥が質の良い着物を着ているのを見て、途中で言葉が途切れる。
隣の男がささやいた。この人は那古野村で見たことがある。
「和颯様の、奥方様だ」
静かなざわめきとともに、たちまち人垣が割れた。
あまが池が見える。
着物を脱いだ織口和颯が、脇差一本を手に持って、一人で池の中を進んでいる。
火鳥は池の淵に駆け寄った。
――ちょっと、何やってんのよ!?――
火鳥は大声を出そうと息を吸い――そのまま、吐けなくなった。
彼は……震えていた。
織口和颯が、恐怖に身を震わせたまま、まなじりを決した。
大きく息を吸う。
手に持った脇差を口に咥え――水の中へ飛び込んだ。
誰かが悲鳴を上げた。
うるさいわね。静かにしなさいよ。
悲鳴の主を睨みつけようとして。
火鳥は、その悲鳴が自分の口から出ていることに気が付いた。




