~陰の巻~ ≪甲賀の里・過去≫
「いた!」
カワセミが叫ぶと、ぱっ、と少年たちが集まった。
カワセミは、祖父であり師匠でもある黒サソリを見上げた。
黒サソリは、満足そうに頷いた。
「そう。そいつがツチハンミョウだ。よく見つけたな」
コマネズミが手を伸ばそうとする。カワセミがその手を振り払った。
「気をつけろ! 猛毒があると言われただろう!」
「あっ。そうだった……」
コマネズミはえへへ、と笑った。
「ツチハンミョウを動かしたいときは、このように木の枝を折って、枝の上に乗せたまま運ぶ――」
黒トカゲが、木の枝に乗せた虫を、一人の少年に手渡した。少年はその虫をじっくりと観察すると、隣の少年に手渡す。
二十人ほどの忍者見習の少年たちは、自分の順番を待ちながら、師匠の話身に耳を傾ける。皆、真剣だ。
カゲロウは、少年たちから少し離れた場所でうずくまり、食べられるキノコを探していた。半日かけて採っても、火を通せばぐっと量が減る。腹にたまるのは、ほんのわずかだ。
――ツチハンミョウ……見たい……
稽古の様子を盗み見ることは、厳しく禁止されている。
カゲロウは、黒目だけを動かした。
キノコを採る手を休めず。顔の向きを変えないように気を付けつつ……。
見えた!
特徴的な体型の、小さな黒い虫。
黒サソリが、少年たちを見回した。
「足の関節から汁が出ているのが分かるか? この汁が――」
――足の関節から、汁……?
カゲロウは吸い寄せられるように立ち上がった。
少年が持つ枝の先を凝視する。黄色い汁が、ツチハンミョウの足を濡らしていた。
あれが、猛毒の――。
ヒョウッ――!
カゲロウの顔をかすめるように矢が飛んだ。
黒サソリが、弓を持ってこちらを睨んでいた。
黒サソリは、黙ったまま2本目の矢をつがえて、構えた。
矢の先は真っすぐにカゲロウの眉間を狙っている。
カゲロウは、すぐさまその場にうずくまった。
黙って、キノコを採る。
手元のキノコが、悔しそうに滲んだ。
黒サソリの声が少年達に語りかける。
「枝にも毒がついている。最後まで気を抜かず――」




