4、大蛇 〜陰の巻〜 使者
密書を持たせた使者が、帰ってきた。
「父上は、なんと?」
火鳥が聞いた。
使者が答えた。
「それが――とりとめもなく食べ物の話をなさるばかりで。
今回は、特に何もおっしゃいませんでした」
「構わないわ。よく思い出して、話して頂戴。
ゆっくりでいいわ。なるべく正確にね」
「はい。承知いたしました」
使者は話し始めた。
「道三さまはまず、私に『柿は好きか?』と聞かれました」
――柿……。
「私が『好きです』とお答えしましたら、『どのような柿が好きか?』と」
――なるほど?
「私は『干し柿も好きですが、生の柿のほうが好きです』と申し上げました。
道三さまは『儂は、熟れた柿が自然に落ちたのを、拾って喰うのが何より好きだ』と仰いました」
――!!!
「次に道三さまは『蛤は好きか?』と仰いました」
――蛤……?
「『私は、山育ちですので、蛤を食べたことはありません』と申し上げました。
すると道三さまは、『尾張は海が近いので、きっと蛤もいるだろうなあ』と仰いました」
――。
「『だが、尾張の蛤は弱いので、すぐ鷸(鳥の名前)に食べられてしまうだろうなぁ』とも」
――ああ。確かに。
「道三さまはしばらく考えた後『来年か再来年の秋にでも、旨い柿が食いたいものだ』と仰いました。
私が『今年の秋にも柿は熟れるのでは?』と申し上げましたら、『今年の柿は不味くて食えぬ。だが、柿は不味くとも肥料は必要だろうから遠慮なく言うように』との事でした」
火鳥の腕に鳥肌が立った。
――承知いたしました。御意のままに。
この命にかえても。
必ずや。
成功させてご覧に入れます。
使者はため息をついた。
「ほら。とりとめのない話でしたでしょう――。
――あれ? 火鳥様……?」
火鳥は床を見つめて考え込んでいた。
今までで、一番大きな任務かもしれない。
だが、やりがいはありそうだ。
今は冬。もう少しで春だから――。期限は一年半から二年半。
これだけの時間があれば、不可能ではないかもしれない――彼のポテンシャルならば。
だが、火鳥と各務野だけで実行するのは難しいだろう。
協力者が必要だ。
できれば、男性の。
この任務の成功の可否は、協力者の選定にかかっていると言っても過言ではない。
慎重に、選ぶ必要があった。




