盗賊
柴山の頂上では、盗賊団が待ち構えていた。
20人ほどだろうか。全員、派手派手しい着物を着崩して、顔や腕に入れ墨を入れている。まさにはみ出し者を絵にかいたような集団だ。
真ん中に、鹿の皮が敷いてあって、ひげ面のいかつい男が座っていた。この男が、盗賊団の頭に違いない。
俺は、こちらの条件を提示した。悪くない、条件のはずだ。
ひげ面の男は腕を組み、口を真一文字に結んで、じっと目を閉じている。
ひげ面の男は目を開いた。
「断る」
「えっ!?」
俺と、盗賊団の者たち、それに政じいと貞じいが驚いた。
「お頭、どうして!?」盗賊団の一人が言った。
「――どの部分が気に入らなかった?」俺は聞いた。
「いや。条件は良かった。悪くない提案だった」
「じゃあ、どうして!?」
「分からん。うまく言えないが、ダメだと思った」
「――俺のことが、信用できないか?」
「まあ。そう、だな――あんたは嘘をつくような人間には見えないが、信用してついていく気になれなかったのは事実だ。
――あんたとは、分かり合えない気がする」
「……そう……か……。」
「せっかく来てもらったのに、悪かったな。
あばよ。機会があれば、また会おう」
ひげ面の男は立ち上がった。
勧誘は、失敗した。
俺は肩を落とす。
ああ。
何がダメだったんだろう。
考えても、仕方がない。
俺は屋敷に戻ることにした。
貞じいと政じいは先に帰ってもらう。俺は少し、遠回りして帰りたい気分だった。
馬に乗って、一人しょんぼりと麦畑の中を通る。
「ああっ! ば和颯様だぁっ!」
麦畑の中から声がした。
……。
ええっ?
ばかっ――!?? 聞き間違い!?
村の子供たちが数人、麦畑の中から顔を出した。
俺がそちらをむくと、ひょいっと引っ込む。
麦畑の中から、くすくすと笑い声がした。
ん?
反対側の麦畑からも、小さなささやき声。
そちらを向くと、キャッキャッと笑い声がする。
んん??
パタパタと足音がして、勝気な目をした女の子が、すぐそばまで走ってきた。
「ねえ、寝巻に裸足で走ってきて、『助六を放せ』って言ったって――本当?」
――まあ、たしかに。
「まあ、概ね、本当だ」
っていうか、距離感、近いな。
昨日まではもうちょっとパーソナルスペースが広くなかったかな?
「盗賊団は5人もいたのに、和颯様は一人っきりで助けに行ったの?」
――それは、確かに。
「――まあ、そうだな」
「変なの! あたまわるい人!」
「えっ?」
ねえっ!
今、俺の事「あたまわるい」って言った!?
「だって、そんなの、負けるに決まってるじゃん! 馬鹿でも分かるよ!」
女の子はくすくすと笑う。
ええ~
彼女は顔を近づけ、小さな声で囁いた。
「はだしで、ひとりで。それでも――助六兄ちゃんを助けに行ってくれて、ありがとう」
え?
「あとで、いいものあげる!」
パタパタと走り去って行ってしまった。
村を通ると、昨日までと俺を見る目が変わっていた。
なんというか――親しみ? を感じる。
ば和颯さま、というささやき声が聞こえてくる気がするのはいただけないが。
昨日までは確かに存在していた、村のみんなと俺を隔てる壁が、ずいぶんと低くなったような気がする。
さっきの女の子だ。
「ねえ。草履。私が作ったから、一足あげる」
へたくそに編み上げた、草履をくれた。
「おう……あ、ありがとう……」
「ちゃんと履いてね」
「――分かった」
足を入れたら、即座に崩壊しそうだけど?
でも、一生懸命作ってくれたんだろうなぁ。
俺が、困った顔で草履を見つめたら、クスクスと笑い声が聞こえた。
おばちゃんたちの集団だ。俺がそっちを見ると、慌てて目をそらした。
俺は、今はいている草履を脱いで、貰ったばかりの草履をはいた。
案の定、足を入れたただけで、草履は少しづつ崩壊していく。
おばちゃんたちが笑いを噛み殺している。
俺が困った顔でそちらを見ると、遠巻きに見ていた村人も、みんな笑いだした。
「あっはっは! とんだおバカ領主さまだ!」
「あんたみたいな領主様、初めてだよ!」
「ば和颯、万歳!」
「ば和颯さまに死なれちゃ困るから、次は、家来と一緒に来てくださいよ!」
「今度、ちゃんとした草履を差し入れますよ!」
俺は馬の上から小さく手を振ってみた。
みんな、笑顔で大きく手を振り返してくれた。
あ。
わるくない―――かも。
悪くない。
悪くないぞ、と俺は思った。




