~陽の巻~
政じいと貞じいには、こってりと絞られた。
「麦の略奪など。日常茶飯事です」
「そんな些末なことは、百姓どもの自己責任で、やらせておけば良いのです」
麦の略奪ごときで、和颯様が直々に出向くなど軽率だ。
怪我でもしたらどうするのか。
夜中に一人で出ていくなど、言語道断。
せめて護衛を連れて行け。
そもそも百姓が飢えようが、関係ない。
百姓は、年貢の米だけ納めさせておけばそれでよい。
ん~。
いろいろ納得いかない。
だけど、反論すると長くなるので、黙って聞いていた。
説教が終わったら、もう一つ、彼らに伝えなければいけないことがあるのだ。
「ええええええええ~!? 盗賊団を部下にする、ですとぉ!?」
俺が計画を話すと、貞じいと政じいは素っ頓狂な声をあげた。
「非常識です」
「前代未聞です」
「ありえません」
「考えられません」
「絶対に失敗します」
「盗賊団など、信用できません」
「やめてください」
二時間くらい延々と反対意見を聞かされて。
それでも何とか説き伏せた。
(今の部下が信用できない、と言うのはやめておいた)
「今日の昼、柴山の頂上で、盗賊団の頭と会合をする約束だ」
「……分かりました。我々も参ります」
とうとう二人が折れた。
「和颯様も、ご準備をしてくださいませ」
俺達は、衣装箱をひっくり返して、一番上等の、羽織と袴、頭巾を引っ張り出した。
「どちらに行かれるのです?」
馬に飾りのついた鞍を乗せていると、火鳥が各務野を連れてやってきた。
火鳥はちょっと眠たそうだ。昨夜は良く眠れなかったのか?
だが、そんなことはどうでも良い。
「おっ! 火鳥じゃないか!」
俺は今日は機嫌がいいぞ。
夕方、帰ってくる時には、部下が増えている予定だ!
「柴山だ。盗賊団の頭にあってくる」
火鳥は眉をひそめた。
「なんだ。火鳥も、盗賊団とつるむのは反対か?」
まあ、女には分からないだろう。
いいよ、分かってくれなくても。
火鳥の答えは意外だった。
「いいえ」
ほう。
「盗賊団と組むのは、悪くないと思います」
おお! 分かってるじゃないか!
俺の味方はお前だけだ!
「ですが、うまくいかないと思います」
なぬっ!
火鳥は小バカにしたように俺を見た。
「では。行っていらっしゃいませ」
冷ややかに言い放つ。
くるりと後ろを向くと、スタスタと行ってしまった。
「なんと無礼な!」
政じいと貞じいは、先ほどまで自分たちも反対していたとは思えない剣幕で、怒っていた。
「和颯様、あのような無礼者、とっとと離縁すべきです!」
「う~ん。でも、この婚姻は、和平交渉の条件だったしなぁ」
今、美濃から攻められるとしんどいんだよ。
「しばらくの辛抱でございます。三年たってお子ができなければ、堂々と離縁することができます」
子供、ね……。
まあ、できる気配はありませんよ。
「わたくしの見立てでは、あの体つきでは、とてもお子を産むことはできないと思います」
ん?
「はい、わたくしもそう思います」
え?
待って待って。なにそれ。
「――体つきとか、関係あるの?」
「大いにございます。詳しいことは腕のいい産婆にでも診せなければ分かりませんが。
こう、腰がば―ん、と張って、尻がど――ん、と出た女は、次々と子供を産みますが、あのような折れそうな体の女は……ごにょごにょ」
ふーん。そういうものなのね。
ま、それ以前の問題だから、気にしないけど。
そっか、三年か。
三年経ったら、俺、新しい妻と再婚できるのか!
ところで俺は、火鳥と離縁したい、のか?
もともと望んで結婚したわけじゃない。
むしろ、最初から婚約破棄を望んでいた。
だから。
うん。多分、離縁したいはずだ。
そう。俺は。火鳥と。離縁したい!
……3年……か……。
よし。
俺の未来は明るい。
今から、盗賊団を、仲間にするぞー!




