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俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


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陰の巻

 織口和颯は刀三本分の距離を保ち、いつでも飛び退くことができる姿勢を保っている。

 火鳥は、いつでも反撃できるように構えた。

 だが、一度は大きく揺らいだ彼の目線は、すぐさま落ち着きを取り戻した。


 ――あら。心を乱さないのですか。

 さすがです。



 膠着状態。



 ――では次は……わたくしから仕掛けさせていただきましょう。


 あえて、彼の目の前で、不安定に刃先を漂わせる。

 ――脇差が重すぎて、自分の腕力では支えきれないかのように。


 たしかに和颯の脇差は、火鳥の愛用していた脇差に比べると、やや重いようだ。

 何時間もの戦闘なら確かに不利だろう。

 だが、和颯だって、決して大柄というわけではない。火鳥は、もっと長く重たい脇差を使ったこともある。

 短時間かつ、この程度の重さなら、問題ない。


 彼が、揺れる刃先をちらりと見た。

 気づかわし気に火鳥の顔を見る。

 火鳥は、あえて唇を軽く噛み、わずかに眉間にしわを寄せてみた。

 あたかも、箸より重たいものは持ったことがない深窓の姫君が、初めて太刀を握ったかのように。


 ――まあ、そうはいっても。

 さすがに、無理があるのは承知している。

 織口和颯には昨日、脇差を差しているところを見られているのだ。

 だが、打てる手は打っておくのが定石(セオリー)だ。



 彼が、ゆっくりと動いた。残っていた太刀を、腰から外した。

 こちらへの注意を途切れさせないようにしながら、じわじわと腰をかがめる。

 手に持った太刀を床に置き、鞘ごと部屋の外まで滑らせた。

 

 彼は、腰に残った脇差の鞘を手に持った。



 あらあら。


 火鳥は目を細めたまま、顎をそらして織口和颯を一瞥した。



 ――舐められたものです。


 確かに、貴方にその太刀を抜かれては勝負にならなかったでしょうが。

 わたくしは火鳥。

 『熊蜂』の弟子です。

 そんな鞘一本で抑えきれるほど、甘くはありませんよ?



 じわり、と動く。壁沿いを移動する。

 鞘を構えた和颯が、同心円を描くように移動する。


 むき出しの警戒心。


 それでも。彼は明らかに、火鳥を格下だと思っている。


 たしかに、その通り。

 だが。

 ――そこが、狙い目。




 床に落ちた懐剣のすぐ脇まで足を進める。

 視界の隅に、鈍く光る刀身と、白い螺鈿細工の柄が見えた。


 ――あと、もう少し……。



 火鳥に向けて構えられた鞘の先からは、ほとばしるような覇気が満ち満ちている。

 ――このまま戦ったら、一瞬で負ける。


 火鳥は静かに声を上げた。

「わたくしは――」


 和颯がはっとしたように火鳥を見た。

 彼の集中力が切れ、手に持っていた鞘が帯びていた覇気が、溶けるように消えた。


「目的のためなら、手段を選ばないタイプです」

 ――ご存じ、ないでしょう……。


「どんなに汚い手でも使う、とも聞いたな」

 ええ。

 本当に、いろいろなことをやってきたのです。

 どんなに汚い手でも、平気で使えるのですよ。


「そうですか。

 覚えていらっしゃったのでしたら、結構です。

 ……もう、お忘れください」

 貴方には、太陽がとても、よく似合う。

 闇と共に生きたくのいちの事など、どうか、お忘れに。


 火鳥は、あえて悩ましげな表情を作る。

 和颯に見せつけるように、脇差の切っ先をプルプルと震わせた。


 彼の瞳が、目の前で揺れる刃先を凝視している。

 目の前でエノコログサの穂を振られた子猫のようだ。

 思わず、笑みがこぼれそうになる。


 ――本当に……。

 まっすぐで。

 分かりやすい人……。


 不意に涙がこぼれそうになり、慌てて気を引き締める。



 ――さようなら。



 火鳥は脇差を、大きく右上に振り上げた。

「やあっ!」

 掛け声と同時に、左足を踏み出す。

 手にした脇差を、和颯の左肩から右腰へと、斜めに大きく振り下ろした。


 和颯の瞳が瞬く間に鋭さを帯び、手にした鞘が素早く動いた。


※補足・日本刀の基本構造

挿絵(By みてみん)

日本刀の基本構造

 (絵がほんのちょっぴり下手くそですが、そこは心で読んでください(笑))


柄と刀身に分かれている。

刀身は、刃と切っ先は切れるが、(みね)は切れない。

(「みねうち」にするやつ!)



男性が腰に差す刀のうち、

長いのが太刀

短いのが脇差(刃渡りが30cm〜60cmくらい)


もっと短くて、懐に入るくらいの大きさのものが、懐剣

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