陽の巻
俺は2本目の綱に刃先を当てた。
俺の未練を断ち切るように、プチプチという手応えがあり、みるみる縄が細くなる。
と。
パ――ン!
乾いた音がした。
近い!
火縄銃だ!!
俺は顔を上げた。
――敵か!?
…………一益、か………?
何頭もの馬の蹄の音が、地面に耳をつけなくても聞こえるほどに近づいてきている。
敵なら、今すぐ橋を切り落とさないと!!
「和颯様っ!!」
対岸で梁田が声を張り上げた。
「敵が迫っています!
このままでは危険です!!
速やかに、お逃げください!!」
皆も口々に声を上げる。
「さあ、早く!」
「和颯様っ!
橋を、切り落としてください!!」
――分かってる。
分かってるよ。
敵は近い。
どんどん近づいてくる。
しかも、一騎じゃない。複数だ。
――俺だって、早く逃げたい。
けど――っ!
もしも、あの中に一益がいたら――?
俺が橋を切り落としたら、逃げ場をなくして、敵に囲まれてしまう!
そうしたら……。
俺は、一益を見殺しにしたことになってしまう。
ああ……。
早く逃げたほうがいいかな………。
どうしよう………。
でも……。
蹄の音だけが、どんどん近づいてくる。
俺はじりじりしながら、蹄の主が肉眼で確認できるようになるのを待った。
最初に見えたのは、栗毛の馬だった。
―― ものかは!! ――
乗っているのは………一益だっ!
大きくて赤黒い何かを小脇に抱えている。
あれは…………火鳥………?
着物の色が変わるほどに血まみれだ。
力を失った手足のようなものが、ゆらゆらと揺れている。
長い髪は黒く垂れ、埃にまみれて絡まって、地面に引きずられている。
生きて……、いるのか………?
まさか……。
火鳥は、もう………。
俺はその疑問を考えないようにする。
――とにかく、一益は帰ってきた!
「一益―――っ!!!」
俺は叫んだ。
「急げ! 橋を落とすぞ!」
待ってて………。良かった……。
鼻の奥がツンとする。
――俺、今。泣きそうだ。
それに。
――一益は………。俺を裏切ったわけじゃなかった。
俺は声を張り上げた。
「一益ーっ! 走れーっ!」




