〜陽の巻〜 美濃・木曽川沿い
俺たちは川沿いに3kmほど進んだ。
前方から義龍の兵がやってきた。
俺たちは応戦した。俺たちが勝った。
2人が戦死し、森可成が、怪我をした。
さらに先に進もうとしたところで、斥候が帰ってきた。
斥候は、肩から血を流していた。息が荒い。
「斎藤道三殿、討ち死に!!」
――まさか!
嘘だろ!?
――間に合わなかった!!!
「斎藤義龍は、和颯様の軍を殲滅させるべく、兵を南下させております!!」
俺は斥候に詰め寄った。
「火鳥は、どうなった?
漆黒の馬に乗った女だ。
見ただろう!?
戦場にいたはずだ!」
「すみません……。見ておりません。
私は……。斎藤義龍の本陣の傍の草むらに、身を隠しておりました。
本陣には、斎藤道三の首が運び込まれました。斎藤義龍はその首を見て『間違いなく、我が父・斎藤道三だ』と。
斎藤道三の首を取った者と、鼻を削いだ者の両方に、褒美を与えると言ったのも聞いております。
……斎藤道三の周りは敵兵が群がり、それはもう、酷い混戦状態だったと聞いております」
――そんな……。
「和颯様っ!」
兵士が前方を指さした。
兵士たちがどよめく。
黒い馬が一頭、こちらへ向かって走ってくる。
あの走りは――。
「黒龍が、帰ってまいりました!」
黒龍は俺を見て首を振り、大きくいなないた。
「黒龍!
よく帰ってきた!!」
――火鳥と黒龍が帰ってきた……!
ほっとして、涙が出そうになる。
俺は黒龍に駆け寄った。
その背中には――。
誰も、乗っていなかった。
「嘘だ………」
――嘘だ。
俺は……信じないぞ。
顔を上げると、景色が滲み、風が頬に冷たく滲みた。
嗚咽が漏れる。
「和颯様、どうなさいますか?」
梁田が心配そうに俺を見た。
俺は血が滲むほどくちびるを噛んだ。
「まだ……。
火鳥様が亡くなったと決まったわけではありません。
皆で、火鳥様がいらっしゃいそうな場所を捜索しましょう」
…………………いや、駄目だ。
そんなことをしていたら、ここにいる全員を危険にさらすことになる。
斎藤道三は、死んだ。
火鳥は、どこにいるかすら分からない。
俺が、大将だ。
俺には……。
皆を、率い、守る、義務がある。
「――撤退する」
俺は皆に告げた。
「撤退だ!
今すぐ尾張に戻る!
怪我人と牛、それから荷馬車を優先させろ。
今来た道を戻れ!
全軍、撤退!!
急げ!!
――殿は俺が務める!」
※ 殿→最後尾。撤退時、一番危険なポジション




