〜斎藤道三〜
鉄砲の音が鳴り響き、背後で男が倒れる気配がした。
「カワセミ……?」
火鳥がつぶやく。背中合わせになっているため、顔は見えない。
カワセミ――聞き覚えがある。
何年も前、火鳥が自分を通じて、那古野に呼び寄せた忍の名だと認識している。
道三は敵を薙ぎ倒しつつ体を捻り、銃声のした方を見た。
栗毛の駿馬に乗った男――30歳くらいだろうか――が、火縄銃を構え、次の標的を狙っていた。
パ―ン!
再び銃声が響き、長槍を持って突進してきた男が倒れた。
義龍が火縄銃の男を指さして何か叫び、義龍の傍にいた数人がそちらへ向かって走り出した。
火縄銃の男が顔をしかめた。
男が、火縄銃を肩に担いだ。
馬の手綱を短く持ち、馬の上で伸び上がるようにして前方を睨みつける。
今いる場所から火鳥の所まで、敵の攻撃をかいくぐって駆け抜けることができるかを、見極めようとしているように見えた。
そうか、火鳥……。
――お前には、こんな所にまで迎えに来るような、仲間がいたのか……。
ここは、儂と火鳥、二人の墓場だと思っていた。
――だが、どうやら違うようだ。
それは道三の胸を、清々しい気持ちにさせた。
――最後は、娘の為に。
道三は、火縄銃の男に向かって、槍を掲げた。
――来い! 若造!
儂が血路を、開いてやる――!
火縄銃の男と道三の目が合った。道三は頷いた。
火縄銃の男が驚いたように目を見開き、眼光を鋭くした。火縄銃の男が頷く。上半身を伏せるようにして姿勢を低くし、馬の首の後ろに隠れて見えなくなった。
直後。
火縄銃の男を乗せた、栗毛の馬が走り出した。
矢をかわし、雑兵を蹴散らし、一直線にこちらに向かって来る。
「長井忠左衛門、斎藤道三の首を頂戴する!」
掲げた槍に、ずしりとした手応えがあった。
――ふんっ!
道三は、その槍を押し返した。
そのまま相手の上からのしかかるようにして槍を打ち下ろす。
栗毛の馬は最高速度を保ったまま、すぐそこまで駆け寄せてきている。
もう、馬の鼻息が聞こえるほどの距離だ。
小真木源太が、太刀を振り上げた。走りくる栗毛馬の脚を狙っている。
道三は、自分の足を突き出した。
小真木源太の太刀が道三の脛を裂く。
バランスを失う体。
火鳥は馬を見ていない。ただ目の前の敵だけを見て、戦いに集中している。
道三はそのまま走り抜けようとする馬に向かって、戦い続ける火鳥の背中を押し出した。
「儂の娘だ!
連れて行け!!」
「心得た!」
火縄銃の男は、馬の横腹から倒れ込むようにして、片手でさっと、火鳥の腹を抱え込んだ。
火鳥が、驚愕の表情を浮かべた。
「何すんの!!
嫌よ! 離して!」
火鳥の体が、二つ折りになるようにして、小脇に抱え上げられる。火鳥は脇差しを振り回している。
道三の肘が、地面につく。
小真木源太の太刀が、陽の光を遮り、黒く鈍く、光って見えた。
速度を落とさずに走り去る栗毛馬。
さらば、我が娘よ。
強く、生きよ。
「いやだ!!
父上―――っ!!!」
絶叫。
太刀が、振り下ろされた。




