〜陰の巻〜
敵の喉元に突き刺した刀を、引き抜こうとした。
伸びてきた手がその刀を掴み、引き抜くのが数秒、遅れた。
右側から、振り下ろされる太刀。
「あっ」
――しまった……!
細い脇差は、ピーン、と音を立て、半分に折れた。
正面左側で、太刀が振り上げられた。革の甲冑を着込んだ、大柄な男だった。
火鳥は、折れて短くなった脇差しを構えた。
――まずい。支えきれない。
まっすぐ火鳥に向かって、太刀が振り下ろされる。
―― パ―――ン! ――
乾いた音がして、山の小鳥が一斉に飛び立った。
太刀を振り下ろしかけたま、驚愕の表情を浮かべ、甲冑の男が、どう、と倒れた。
「カワセミ……?」
――いや、そんなはずはない。
火鳥は、足元で倒れている兵士の腰から、脇差を一本、引き抜いた。
――長いし……。重い……。
だが。
贅沢は言えない。
火鳥は拾い上げた脇差しを構えた。
間髪をいれずに襲いかかってきた男を、切り捨てる。左からくる槍は躱した。
敵は、まるで後から後から湧き出てくるようだった。
槍を蹴り落とし、頸動脈を切る。太刀を握る手首は、切り落とした。
息が、上がる。喉が灼けつくようだ。
額に、汗が流れた。
足下がふらつく。
視界を広く保つのが難しくなってきた。
……気を抜くと、命を落とす。
―― しっかりしろ! ――
私は、火鳥。
斎藤道三の娘で、『熊蜂』の弟子。
今ここで迎える、最期の一瞬まで。
その名に恥じぬ、戦いを。
――まだ、死ねない。
刀を、握りなおす。
――集中――
襲いかかる敵の動きが、突然緩慢になる。世界から、音が消えた。




