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〜陰の巻〜
「火鳥、見参」
低く名乗りを上げ、火鳥は周りを見回した。
取り囲む兵士たちは、呆けたように動きを止めている。
――今だ!
火鳥は左手に持った、よくしなる細い枝で黒龍の尻を、力いっぱい叩いた。
――ありがとう。黒龍。
ここまで、よく走ってくれたわね。
もう良いわ。
お前は、和颯様の下へお帰り――
黒龍は跳び上がり、狂ったように走り出した。
突然現れた駿馬を捕まえようとする男たちを踏み殺す。
黒龍は、戦場を駆け抜ける漆黒の風となり、西へと走り去っていった。
――さよなら。
火鳥の唇が微笑んだ。




