斎藤道三
義龍軍は奈賀良川を渡り、道三も兵の配置を整えた。
両軍は睨み合った。
人数の差は歴然としていた。
義龍軍から長屋甚右衛門がただ一騎、進み出た。
道三軍からは柴田角内が応えて進み出た。
2人は両軍の真ん中で対峙した。
ざわめきが消え、風と水の音しか聞こえなくなった。
そこにいる全員が、息を呑んで見守る。
一騎打ちだ。
長屋甚右衛門が槍を構えて柴田角内に踊りかかった。柴田角内はそれをかわし、長屋甚右衛門に打ちかかる。
長屋甚右衛門は、槍の柄でそれを受けた。
力が強いのは、柴田角内。
長屋甚右衛門が崩れかかったところで、柴田角内が一気に長屋甚右衛門の首を突き、勝負がついた。
――それ見ろ!
また儂の勝ちだ!
道三は愛用の槍を握り直した。
涙が、溢れそうになる。
――斎藤道三ここにありき、と。
天下に知らしめてやる。
――感無量。
大地を揺るがすような、鬨の声が上がった。
義龍軍が雪崩のように、一気に道三軍に押し寄せた。応戦する道三軍。
道三が率いるのは、いずれも数々の戦場を渡り歩いたつわものばかり。
1人で何人もの敵を相手にしながら、決して相手に引けを取らない戦績をあげていく。
だが、5倍を超える人数差はいかようにも埋めることはできない。
1人、また1人と討ち取られ、じわじわと後退していく。
「斎藤道三、覚悟っ!」
ギラリと光る太刀を振り上げ、若い侍が道三に斬り掛かった。
「ふんっ!」
道三は自慢の槍を振るい、その若造の首を落とした。
血飛沫が、頬にかかる。
「いかにも。――儂が斎藤道三だ。
身の程知らずの、若造どもめ!
かかってこい!」
道三が一喝すると、兵士たちが怯んだ。
「やっ、やああああーっ!」
不意に叫び声を上げ、まだ少年の面影を残す兵士が切りかかってきた。
それに励まされるように、皆が一斉に道三に挑みかかる。
正面からの攻撃。薙ぎ払う。
右からの攻撃。身をかわす。
後ろからの攻撃。槍の柄で突き倒す。
再び正面。そして右と左から2人づつ。
かわしきれないし、防ぎきれない。
………もはや――ここまでか……。
「はっ!!」
左から、黒い風が駆けてきた。
風は前方の兵士たちを蹴散らすと、道三の左にいた兵士たちをまたたくまに斬り伏せ、道三の脇でひらりと降り立った。
兵士たちがざわめいた。
「くのいち!?」
その女は、返り血で紅く染まった着物を翻し、漆黒の馬から降り立った。長い髪が風に乗ってなびく。
右手には細く短い脇差しを、左手にはよくしなる小枝を持っている。
兵士たちをゆっくりと見回し、低く、だがはっきりと名乗りを上げた。
「――火鳥、見参」




