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〜陰の巻〜
木曽川のほとりから奈賀良川まで16km。
歩いて4時間のその距離を、火鳥を乗せた黒龍は1時間もかからずに駆け抜けた。
義龍軍は稲葉山を離れ、奈賀良川のほとりに陣を張っていた。
火鳥は義龍軍に気付かれぬよう、大きく東に迂回して、奈賀良川を渡る。
東は上流だ。西に迂回したほうが近道で平坦だが、山道の方が身を隠しやすいし、木の陰から戦の様子を窺い知ることができる。
万が一敵に見つかった場合、平野だと弓を射掛けられる心配があるが、山中なら木々が弓を防いでくれる。黒龍なら、山道でも敵の追跡から逃げ切る自信もあった。
火鳥は、山道を選び、慎重に、道三軍の東へと馬を歩かせる。
下流から、わっ、と鬨の声が上がった。
義龍軍に動きがあったようだ。
――急がねば。
火鳥は黒龍のたてがみを握りしめた。
黒龍が少し、歩みを速めた。




