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俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


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陽の巻

「『ものかは』を連れて来いっ!」

 俺は怒鳴った。


「それから、舟を一(そう)用意!

 今すぐ、だっ!」



 『ものかは』は、俺の二番目にいい馬だ。

 闘争心と足の速さでは黒龍には敵わないが、黒龍にはない落ち着きと、乗り主への従順な心を持っている。



「和颯! 落ち着けっ!!」


 一益が俺の目の前に立ち塞がった。


「お前が1人で行って、何ができる!?

 自分の立場を考えろ!!

 斎藤道三の娘婿だぞ!

 敵の、格好の標的になるだけじゃないか!


 それに、お前が連れてきた兵士たちを、どうするつもりだ!?

 こいつらは、お前が『行く』と行ったから、ここまでついてきたんだぞ!」


 ――そうだ、その通りだ。



「一益――」

「なんだ!?」


「火鳥は、どこに行ったと思う?」

 一益が、たじろいだ。

 だが、すぐに答えた。

「……斎藤道三の、(もと)へ」


「何のために?」

 俺はたたみかけた。

 一益は口ごもった。

「……お前は、どう思うんだ?」


 俺は迷わず答えた。

「道三殿と一緒に、斎藤義龍軍と戦うつもりだと思う」

 先ほど火鳥が見せた動きは、素早くて鮮やかだった。

 先日、刺客が来た夜、火鳥が俺へと放った攻撃も。


 ――あれほどまでに筋が良いのなら、戦場で斎藤道三を助けようと考えても不自然ではないだろう。



 一益が遠慮がちに答えた。

「――俺も、そう思う」



 斎藤道三は戦上手だ。その娘として育った火鳥には、武術の達人の技を間近で見る機会があったに違いない。

 火鳥は女だが、武家の娘だ。

 あの動きは自己流とは思えない。誰かから、多少の手ほどきを受けたことがあるのかもしれない。



『ものかは』が()かれてきた。

 俺は、『ものかは』の手綱を受け取った。

 一益を見る。


「道三殿は、劣勢だと言ったな。

 どうすれば、道三殿を救えると思う?」


 一益は顔をしかめた。

「……俺には見当もつかねぇよ」


「なあ、一益――」

 俺は息を吐いて、もう一度吸った。

 胸の奥の塊を、吐き出すように尋ねる。

「……火鳥は――帰ってくると思うか?」


 一益は、口を閉じた。

 震える唇で視線を泳がせ、黙って顔を伏せる。

「一益。答えろ」


 一益の喉から、絞り出される声。

「……………思わねぇ……」



 俺は一益の肩を掴んだ。

「俺はっ!

 火鳥を失いたくない!」


「……お前だけじゃねぇよ……」

 消え入りそうな声で、一益が(こた)えた。


「一益。

 お前には忍びの心得がある。

 今から1人で、戦場に乗り込み、斎藤道三を助け出すことができるか?」


「いや、無理だ」

 一益は(うつむ)いたまま即答した。


「斎藤道三は総大将だ。

 敵の目が多すぎる。

 いくらなんでも、できるわけねぇよ」



 慌ただしく、川に舟が準備される。



「じゃあ――……。

 火鳥を連れ帰って来る事は?」



 一益が顔を上げた。

 目が大きく見開き、まじまじと俺の顔を凝視する。俺はその視線を、正面から受け止めた。

 一益の表情が、ゆっくりと質感を変えていく。最後にその目が強く鋭く光り、キッ、と一点を見つめた。


「……――できる」



 俺は『ものかは』の手綱を握りしめた。



 一瞬、抗いがたい迷いが俺を支配する。


 火鳥は黒龍に乗って走り去った。

 それでも『ものかは』に乗った一益なら、きっと火鳥を見つけ出すだろう。



 ――だが、そのまま帰ってこないかもしれない。



 黒龍と『ものかは』は、俺のいちばんいい馬だ。売っても貸しても、かなりの金額になる。

 2人が2頭の駿馬とともに、手に手を取って、どこか遠くへ逃げ去っていく情景が目に浮かんだ。



 ――それでも。



 一益に『ものかは』を託す以上に、火鳥の戦死を食い止められる可能性が高い方法は、思いつかない。


 このまま何もしないで火鳥を失ったら、俺はきっと、もっと後悔する。



 俺は、もう一度『ものかは』の手綱を握りしめ、一益に向かって差し出した。


「行け。一益。

 火鳥を連れて帰れ」


「――御意(ぎょい)……!」


 一益しっかりと俺の目を見て頷いた。

 そのまま後も見ず、走り去るようにして『ものかは』と共に舟に乗り込んだ。


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