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俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


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~陽の巻~ 那古野 早朝

 雨風がしのげるよう、きちんと手入れされた民家。

 秋に()かれた麦は、小さな芽を出し、畑の隅々まで緑が覆っている。

 那古野は豊かだった。


「あ、和颯様!」

 早起きの村人が俺を見つけて、大声を上げた。

 すぐに何軒かの家の扉がガタガタと開き、寝ぼけ眼の子供たちが、飛びだしてきて歓声を上げた。

「ば和颯様だー!」

 

 外に出てきた大人たちが、大きく手を振ってくれた。

 俺も笑顔で振り返す。

 帰ってきた、と思った。




 信光叔父さんの屋敷は、村の高台にある。7ヶ月前まで俺が住んでいた屋敷だ。勝手は知り尽くしている。


 俺と一益は、信光叔父さんの屋敷の庭に馬をつないだ。

 気のせいだろうか。

 早朝なのに、屋敷の中がざわついている。

 一益が、顔をこわばらせた。



 一益が遠慮がちに、玄関の扉をたたいた。

 すぐさまバタバタッと足音がして、押し殺した声が聞こえた。

「――誰だっ?」

 山じいだ。信光叔父さんの家老で、俺も小さい時からかわいがってもらっている。

 いつもは温厚なのに、今日は声がピリピリしている。


「山じい、俺だよ。和颯だ」

「――和颯様……?」

 警戒するように、ほんの数センチだけ戸が開き、平山じいの目がこちらを覗いた。

 一益が、扉に顔を近づけた。

 小声でささやく。



「昨晩の夜中。和颯様は、刺客に襲われました。

 もしやと思い、夜明けを待ち、こちらに伺ったのですが――」


 俺と、山じいが、同時に息を呑んだ。

 ――そういうことか……!



 ガタガタと音がして、人が1人、やっと通れる分だけ、扉が開いた。


「どうぞ、お入りください」

 山じいの顔は、真っ青だった。


 案内されたのは、少し前まで俺が使っていた寝室だった。

 俺は寝室に手をかける。

 一益がなぜか、懐から手拭いを出し、自分の手の平にのせた。



「信光叔父さん、和颯です。

 開けますよ」

 ――返事はない。

 中で動いていた複数の人間の足音が、ぴたりと止まった。

 


 ――まさか……。

 いや、俺は信じないぞ――……。



 俺は寝室の扉を開け、その光景を見た。

 その後、少しの間の、記憶がない。

 とにかく、俺は絶叫していた。

 気が付いた時には、一益が、俺を後ろから抱き抱えるようにしていた。外に叫び声が漏れぬよう、手拭いで俺の口をふさいでいる。

 俺は我を忘れた。涙がとめどなくあふれる。喉が潰れるほど叫んだ。

 ふらつく身体を、一益が支えた。



 どのくらい、そうして叫んでいたのだろう。


「信光叔父さんっ!!!」

 俺は一益を振り払い、夜具に横たわる信光叔父さんに駆け寄った。


「嘘だろ! こんな――!!」


 寝室には――何年間もずっと、俺の寝室だったその部屋には――どす黒いしみが飛び散っていた。

 信光叔父さんは、仰向けのままぴくりとも動かない。


 俺は信光叔父さんに駆け寄り、抱きつき、泣き叫んだ。


 信光叔父さんは首を切られ――絶命していた。



 泣いて、泣いて、泣いて。


 俺は、はっと気が付いた。

 抱きついていた亡骸を夜具に戻す。

 俺は――こんなところで泣いている場合じゃない――!



「一益っ!!」

「はっ! ここに」

「馬を出す。本家へ行くぞ! 今すぐだ!」

「御意」


 俺は慌ただしく、那古野を後にした。


 全速力で馬を飛ばす。

 一益は遅れながらも、何とかついてきた。



 ―― 信勝! ――



  無事で、いてくれ!!




 昨夜、俺は刺客に襲われた。

 火鳥と一益がいなかったら、間違いなく俺も殺されていた。


 俺を殺したいほど憎んでいる人間など、俺は1人しか知らない。



  ―― 今川 義元 ――



 駿河から、三河まで、一気に勢力を広げた今川家。

 首都・清州も手中に収め、尾張攻略にリーチをかけていた。

 尾張の東端は織口家の領地。

 次の標的は織口家だ。


 だが俺たちは、村木砦を落とした。

 清州を攻め、坂井大膳の仲間に大打撃を与えた。

 策略を用い、清州から坂井大膳を追い出した。

 今川義元は、きっと地団太を踏んで悔しがったことだろう。


 しかも。

 信光叔父さんは、坂井大膳に『味方になります』と嘘をついて裏切っている。

 そのおじさんから清州を引き継いだのがこの俺だ。

 坂井大膳には、今川義元の息がかかっている。つまり俺と信光叔父さんは、今川義元を騙し、裏切ったことになる。

 ――昨日の刺客は、その裏切りへの仕返しだ。



 信勝は――。

 今川義元との同盟を模索しているはずだ。

 俺と信光叔父さんとは、一線を画しているかのように振る舞う計画だった。


 だけど。

 清州を攻めた柴田勝家は信勝の部下だし、俺と信勝は兄弟だ。

 

 もしも、義元に、信勝と俺たちが、同一グループだとみなされていたら……。



 俺は焦る気持ちを紛らわすように、両足で馬の腹を締め上げた。


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