~カワセミの唄~ 夜明け前 の前
火鳥は、まだ暗いうちに目を開けた。
ぼんやりとした瞳で不思議そうに、顔の前 15㎝ にある和颯の寝顔を見つめ、次の瞬間、がばっとはね起きた。
俺と目が合うと、豆鉄砲を喰らった鳩みたいな顔をして、口をぱくぱくさせる。
その顔があんまり可笑しいので、俺は思わず吹き出しそうにる。
火鳥は憤慨したような顔をして、さっと顔を背けた。
「よく寝てたじゃねぇか」
声に笑みが混じる。
火鳥は、苦虫を噛み潰したような表情で、乱れた髪を手早く整えはじめた。
「――一晩中、ひとの寝顔を見ていたの? 悪趣味ね」
――悪ぃ悪ぃ……怒るなよ。
「俺も寝ていたほうが良かったか?」
火鳥が動きを止めた。
火鳥は口をとがらせたまま、上目遣いに俺を見た。
「――ごめんなさい、謝るわ」
俺は声を立てずに笑った。
火鳥は小さく俺を睨んだ。口元が、緩んでいる。
目覚め始めた火鳥から、少しずつ、くのいちの気配が滲み出す。
「……夜中に変わったことは?」
「何もねぇ」
「厩には行った?」
「いや、まだだ」
「那古野と、本家に行くんでしょう?」
「そろそろ、和颯を起こす」
「――馬を、用意しておくわ」
「ありがてぇ」
火鳥は立ち上がった。
振り返りざまにもう一度、ちらりと和颯の寝顔を一瞥し、足音もたてずに部屋から出て行った。




