陽の巻
「申し上げます」
一益が割り込んだ。
一益は、一瞬だけ俺を見たが、すぐに目をそらした。
たぶん――俺が火鳥を、包み込むようにして抱いているから。
「火鳥様は『おかしな物音がする』とおっしゃり、わたくしを起こしにいらしたのです。
『まるで、屋根の上に人がいるようだ』と。
――そう、でしたよね?」
ほっとしたように、火鳥が口を開いた。
「――ええ」
「わたくしは、様子を見に行きました。
念のため、火鳥様にはわたくしの懐剣をお貸ししました。
わたくしが戻るまで『決してこの部屋から出ないように』とも申し上げました」
火鳥が頷いた。
一益が、俺を見る。
「その後のことは――和颯も知っての通りだ」
俺はつぶやいた。
「――もしも、火鳥がいなかったら……」
一益が、肩をすくめた。
「今頃、お前は首を斬られて死んでいただろうな」
――俺は……また。
火鳥に――助けられた……。
俺の腕の中で、火鳥が少しだけ体を起こした。
親密な者同士のみが見せる、恨みと信頼のこもった目で一益をにらむ。
「扉を開ける前に、声をかけてくれると思ったのに」
一益は、小さく頭を下げた。
「――申し訳ございません。
和颯様が部屋に入られる時に、火鳥様にお知らせしなければとは思ったのですが。
侵入者に灰をかけられ、思うように声が出なかったもので」
「そう。
それは――災難だったわね……。
扉が開く前、乱れた足音がいくつも聞こえたの。侵入者かと思ったわ。
怖かった。
でも――。あなたも……無事でよかった……」
俺は、火鳥の頭を自分の胸元に引き寄せた。
なんとなく。無性に。そうしたくなって。
火鳥と一益の視線が途切れる。
二人の会話は、そこで終わった。
火鳥はまだ、小さく震えている。
俺は、火鳥の背に、静かに自分の手を添えた。黙ったままずっと、座り続けた。
火鳥の震えは、少しづつおさまっていった。それでも俺は、じっとしていた。
火鳥が目を閉じた。俺の腕の中で火鳥をくるみこんだ夜具は、さっきよりもずっと暖かくなっていって――。
やがて小さな寝息が聞こえてきた。
火鳥は、眠ってしまったようだ。無防備な唇が、俺の胸元をかすめた。
「――一益。
火鳥を部屋に、寝かせに行く。
手伝ってくれ」
声をかけると一益は、俺が腕に抱えた夜具を見て、驚いたように目を剥いた。
俺が立ち上がろうとするのを、一益が制した。
「――いや……。
もう、あいつは戻ってこないと思うが……。
念のため今夜は、皆が同じ部屋にいたほうが良い。
俺が朝まで起きていてやるから――。お前もここで寝ろ」
「そうか。じゃあ、俺も交代で起きて――」
「駄目だ。お前は夜更かしできないだろ。
いいから。寝ろ」
それを聞いた瞬間に、抗いがたい眠気が襲ってきた。
俺は一益が用意してくれた夜具の上に、そっと火鳥を横たえた。
隣に寝転ぶ。火鳥の顔が、俺の真横にある。
俺は最後の力を振り絞って、自分のまぶたをこじ開けた。
おだやかな火鳥の寝顔を、刻みつけるように自分の記憶に焼き付け――目を閉じた。
遠ざかっていく意識。
そういえば。
火鳥と同じ部屋で眠るのは、これが初めてだ――。
一益の声が、ずっと遠くの方から聞こえる。
「朝一番に、やることがある。
夜明け前に起こすからな。ちゃんと起きろよ」
「分かっ―――」
俺はたちまち、眠りに落ちた。




