カワセミ
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
とにかく音を立てないようにして、最高速度で庭を進む。
もしも今、俺が暗殺任務に挑むとしたら――。
俺はちらりと空を見上げた。
――今夜のような、月の明るい夜を選ぶ。
依頼者は、暗殺対象者と直接会ったことはないはずだ。
忍が伝えられるのは。おそらく標的の名前と、屋敷の所在地だけ。
俺なら、数日前から屋敷の近くに潜伏し、遠くから標的の顔と行動パターンを探るだろう。
寝室の場所は、昼間のうちに見当をつけておく。夜になって皆が寝静まるのを待ち、屋敷の中で目星をつけておいた場所に忍び込む。
庭から寝室に忍び込んだら、扉は開けておく。逃走経路確保のためと――外からの光を少しでも多く取り込むためだ。
寝室へ忍び込んだらまず、標的がよく眠っているのを確認するはずだ。
月明りを頼りに、油を固めたろうそくに火をつける。ろうそくと月の明かりで、そこにいるのが間違いなく暗殺対象者であることを確認する。
確認ができたら、火を消す。ろうそくをしまう。
静かに、愛刀を鞘から抜く――。
俺は、裸足で庭を駆け抜ける。
庭に面した、扉のうちの1つが、大きく開いていた。
俺は、もはや足音も気にせず、その部屋――和颯の寝室――へ、飛び込んだ。
顔を黒っぽい布で隠した暗殺者が、眠っている和颯の首元へ、刀を振り下ろすところだった。
月の光を受けて、まっすぐな刀がギラリと光った。
――ふざけんな!!
俺は夢中で地を蹴った。
――殺されてたまるかよ!!!
途中、何か柔らかいものを踏んだ。
バランスを失いそうになる体。何とか踏みとどまる。
振り下ろされる忍者刀。
俺も太刀を振り上げる。足は止めない。背中から反るように体を倒した。
そいつと和颯の間に滑り込む。
――間に合え!――
握りしめた太刀を顔の前で斜めに構える。振り下ろされる刀をなんとか受け止めた。
キ―――ン
刀と刀がぶつかり合う音がして、暗い寝室に火花が散った。
刀が折れそうだ。
振り下ろされた刀の勢いは凄まじく、とても片手では受けきれねぇ。
俺は両手で刀を支え、渾身の力で耐えた。
――くそっ……。なんて力だ!
俺は、この期に及んでも呑気に眠っていやがる、俺の命より大切な主君に呼びかけた。
「馬鹿野郎っ!! 起きろっ!!!」




