織口家本家・仏間
仏間には、既に信光叔父さんがいた。
父上の位牌の前で正座をし、神妙な顔をして静かに手を合わせている。俺が戸を開けると、閉じていた目をゆっくりと開き、顔を上げた。
信光叔父さんがこちらを向く。
「おう、和颯じゃねぇか。
兄貴に報告に来たのか。
見かけによらず、殊勝なところがあるじゃねぇか」
――信光叔父さんも、ね。
俺は信光叔父さんの隣に座り、父上の位牌に手を合わせた。
(父上。信勝に、子供が生まれました。
元気な男の子です。
名は、信澄です。
俺は――信澄のためにも、いっそう励みます)
俺は顔を上げた。
信光叔父さんが、俺を見ていた。
「ここでお前と会えて良かった。ちょっと、相談したいことがあったんだ」
叔父さんは俺の耳に口を近づけた。
(清州から、密書が届いた――)
「ええっ!?」
俺は驚いて、穴が開くほど叔父さんを見た。
信光叔父さんはにやりと笑って頷いた。
「俺はここで待っている。信勝を呼んで来い」
俺は頷いて、立ち上がろうとした。
その時、すっ、と戸が開き、信勝が現れた。
「ああ。
兄さん―――。やっぱりここにいた」
心なしか顔が緊張している。
信勝は、そのままの顔で信光叔父さんを見た。
「……信光叔父さんも……。
良かった……。
二人に、相談したいことがあったのです――」
「おう、信勝じゃないか。
めでたい日に、辛気臭い顔をするな。
まあ、座れ。
ちょうど今、お前を呼びに行こうとしていたところだ」
信勝が座ると、叔父さんが信勝の肩をたたいた。
「どうだ? 父親になった気持ちは?」
信勝が、はにかみながら答えた。
「正直に申し上げて、まだ実感がわきません。
確かに嬉しいのですが。
――責任も感じます。
自分が。あの、小さな尊い命を守っていくのだ、と」
信光叔父さんは、うんうんと頷いた。
「実感は。徐々に湧いてくるさ。
子供はいいぞぉ。
家臣はみんな喜ぶし、何より家が明るくなる。
和颯、お前も早く子供を作れよ。
――だがまあ、その話はまた今度だな」
――完全に信光叔父さんのペースだ。
「さて。
そんなお前達に朗報だ。
俺のもとに、密書が届いた。
送り主は――坂井大膳」
――なんだって!!?
俺たちの輪が、ぐっと狭まる。
信光叔父さんは懐から手紙を取り出した。
※※※
織口信光殿
信秀殿が亡くなり、尾張の守護も自害した。
尾張国内はこんなにも揺れ動き、情勢は移り変わっている。
それでも。織口信光殿、貴公はその名の通り、威光をいささかも揺るがさず、常に清く明るく輝いているようだ。
正直に申し上げよう。
先日、私は多くの味方を失った。
現状、私だけの力で清州を治めることは難しい。
どうか、お力をお貸しいただけないだろうか――!
信光殿。清州にいらっしゃいませんか?
清州に屋敷を用意いたします。
地位も権力も保証します。
守護・斯波家を滅ぼし、共に、清州に君臨しようではありませんか。
どうかよくご検討くださいませ。
なお、この件はくれぐれも内密に。 坂井大膳
※※※
うわぁ……。
『くれぐれも内密に』って書いてあるのに、あっさりと俺たちに見せるところが、いかにも信光叔父さんだ。




