織口家本家
「信勝~~っ!!!
緊急事態だ!
すぐに来てくれ!!」
本家の門の前で大騒ぎをしたら、しかめっ面の信勝が出てきた。
小声で事情を説明したら、すぐに顔色が変わって、柴田勝家と一緒に那古野に来てくれることになった。
一益は清州の状況を探りに行っている。
俺と信勝、それに勝家が、おし黙って馬に乗り、那古野へ向かっている。
勝家は、ものすごく居心地が悪そうだ。
信勝の顔を見るのは、久しぶりだ。
仲直りをするなら。今しかない。
「あのさ………。信勝」
俺は、信勝の後ろから話しかけた。
信勝は返事をしなかった。
だが、聞いていることは分かる。
「悪かったよ……。その……。
父上の葬式の件だ。
………――俺は。
お前を、支える――ちからに、なりたかった」
「……………」
勝家が、あからさまに馬の歩みを緩め、俺たちのずっと後方に下がって行った。
俺は信勝の隣に馬をつけた。
信勝はこちらを見なかった。だが、馬の歩みも変えなかった。
「……政じいが。
――本家の家臣に働きかけていた。俺を、織口家の跡取りにするために……。
俺は――。気付かなかったんだ」
信勝が、不信感丸出しの表情で、ぼそりと言った。
「口封じのために、政じいを切腹させたのかよ」
「違う!
確かに、葬儀の後、ちょっと強めに注意はしたけど……。
まさか、切腹までするとは思わなかったんだ。
……政じいとは、長い付き合いだったから。俺は、政じいの考えていることくらい、分かってると思ってた………。
でも、それは……。俺の、勘違いだった……」
俺は。いつもいつも。勘違いばかりだ。
「………」
「以前、本家で、お前に。……葬儀での奇行の理由を聞かれた時、ちゃんと答えなかったのは悪かったと思ってる。
答えなかった理由は――。
理由を知れば、父上の跡を継いだばかりのお前が――。自分への自信と、家臣への信頼を、なくすだろうと思ったからだ」
「……じゃあ、兄さんが。あの日。
母さんを泣かせてまで守りたかった人っていうのは――」
「信勝、お前だ。
――他に、いるわけないだろう」
信勝は、唇を尖らせた。
真っ青な空に白い雲。
ぱこぱこ、と馬の足音だけが響く。
「――……兄さんの、ばか……」
「……ごめん、信勝……」
「……いいよ。
……もう………。
…………済んだことだ………」
「よっ!」
後ろから突然、がしっと肩を掴まれて、俺達は同時に悲鳴を上げた。
「「ぎゃ――っ!!」」
信光叔父さんが、ケタケタ笑いながら、俺たちの間に割り込んできだ。
「おお、二人とも。兄弟喧嘩は終了か?」
「のっ……信光叔父さんっ!?」
やめて! ホント!
心臓に! 悪いから!
信勝が声を上ずらせた。
「どっ……どこから聞いていらしたのですか!?」
「んん? 割と最初の方からだと思うぞ」
俺はぐったりと呟いた。
「声をかけてくださいよ……」
「そしたら、お前たち、仲直りができなくなるだろう?」
信勝が眉間を押さえた。
「じゃ、せめて離れたところにいてくださればよかったのに……」
「そしたら、お前たちの話が聞こえないだろう」
――叔父さんっ!!
最初から、盗み聞きする気満々ですか!?
信光叔父さんはケラケラと笑った。
「仲直りできたみたいで何よりだ。
良かったな」
「良くありません!」
信勝がかみついた。
「兄さん! まだあるよねっ!!?」
信勝は昔から、けっこう粘着質なところがある。
しかたがない。
信勝が納得するまで、今日はとことん謝るぞ。
「ある。村木砦の件だろう。
お前の、禁止令を無視した。
勝手に村木に行って――」
「美濃軍を、無断で領地に入れただろう!!」
――ぐはっ。
「――悪かった。
反省してる」
「こっちは大変だったんだぞ!」
「分かったよ――。
こんなことになるなんて、思わなかったんだ」
「ちょっとは考えて!」
はい。すみません。
「悪かった。――それに……。
信勝の言うとおりだった。
俺たちは勝ったけど――犠牲も大きかった。
仲間が。たくさん死んだ……。
俺にとっては、かけがえのない仲間だったんだ………。
次からは、お前の言う事をちゃんと聞くようにするから――」
「オレが気に入らないのは!!」
信勝が、ぐいっと体をねじってこちらを向いた。
「オレは――オレは!
オレは、いつも。
ちゃんと人の話を聞いて。筋道立てて、考えて。
行動する前に、計画に漏れがないか、何度も何度も検証して。
時間をかけて、確かめて。
それから正しいと思う方法で動くのに。
兄さんは、いつもいつも。
思い付きで行動して――」
「だから、悪かった。
反省してるって――」
「違う!
そうやって。たいして考えもせず、勢いだけで動いているくせに! 兄さんの取った支離滅裂な行動が、巡り巡って誰かを動かして、俺が思いもしなかった方向に物事が進んでいくのが、気に入らないんだ!」
「……信勝……」
信勝は、ぷいっと横を向いた。
信光叔父さんが、「仕方ねぇな」という顔で俺の肩をぽんぽん、と叩いた。
「つまり、和颯の無謀な行動のおかげで、斯波義銀さまが織口家を頼ってきた。
それは、当主の信勝にとっても、名誉なことだ――。
そう、言いたいってこと、だな?」
「ふんっ!」
信勝は、わざとらしくそっぽを向いた。
信光叔父さんが、ケタケタと笑った。




