村木砦
灼けつくような緊張感があたりを支配している。
ぬかるんだ道を踏みしめ、夜明け前に持ち場についた仲間たちが、500丁の鉄砲を握りしめ、俺の合図を待ち構えている。
村木砦は、まだ眠りから覚めていない。
暗闇の中にひとつふたつと揺れる灯りが、敵兵の位置を教えてくれる。
俺は巨大な堀の前に陣取って、左右を見た。
左右には、村木砦へと繋がる二本の橋がある。
右側が表門。左側が裏門だ。表門担当は信光叔父さん、裏門担当は水野信元。
突撃準備のできた兵士たちを待機させ、橋の手前からこちらを見ている。
俺は隣を見た。
引き締まった顔の一益が、俺に向かって頷いた。
俺は、鉄砲を抱えて俺を見上げる、かけがえのない仲間たちを見回した。
500人、ひとりひとりの表情を確認する。
清六・甚太郎・可成・源介・勘兵衛・伊予・利家・久蔵………。
皆、緊張はしているけど、これなら大丈夫そうだ――。
俺が小さく頷くと、全員腰に下げた小袋から、火薬と硝石、鉛玉を取りだした。
音を立てないように気を付けながら、細い棒を使い、それらを火縄銃の銃身に、順序通りに詰めていく。
全員の準備が終わった。
俺を見上げる1000個の瞳。
俺は静かに、右手を上げる。
500丁の鉄砲が、村木砦の塀を狙い、橋の前に陣取った兵士たちが姿勢を低くした。
東の空から、輝きが昇り始める。
俺は皆に向かって笑いかけた。
――さあ。やってやろうぜ!――
俺は上にあげた右手を、勢いよく振り下ろした――




