陽の巻
俺は信光叔父さんを見た。
信光叔父さんは、困ったような顔で笑った。
「まったく、最近のお前ときたら――。
自由奔放、やりたい放題だな。
まるで死んだ兄貴が、パワーアップして戻ってきたみたいだ」
――父上――。
俺の胸が、じんわりと熱くなる。
「そうそう、勝家に聞いたんだが、何か策があるんだろ?」
俺は頷いた。
「はい。大勝利間違いなしです」
「――ふうん。
あの堅物・勝家から、秘策を引き出すとは、なかなかやるじゃないか。
そこは、まあ、褒めてやる」
――え?
「確かにすごい作戦です。
ただ、引き出すのに、そんなに苦労した覚えはないっていうか――。
なんか、勝家が勝手にしゃべったというか……」
信光叔父さんはちらりと後ろを振り返りった。
一益が、荷馬車に積んだ鉄砲が荷崩れを起こさないよう、荷台の紐を結びなおそうとしていた。
少し前に美濃からやってきた森可成という男が、すぐに気付いて飛んできて、荷台の反対側から、山積みの鉄砲の箱を押さえる。
可成の兜の先には、70センチはありそうな、とんがった角のような飾りがついていた。飾りが邪魔で動きにくそうだ。仲良しの前田利家がやってきて手伝いながら、可成の兜のデザインをからかっている。
信光叔父さんは、眩しそうに笑って、前を向いた。
「ふうん……。そうか」
「――っていうか叔父さんだって、勝家から聞き出しているんですよね?
『勝家が俺に、秘策を授けた』って事」
「まあな。
勝家とは、長い付き合いだ。
勝家は少し、挙動不審だった。
だから屋敷の裏に呼び出して、問い詰めてやった。
ちなみに勝家は、信勝にも土田御前にも、お前に策を授けたことは内緒にしていたぞ」
「じゃあ、叔父さんはどうやって――」
信光叔父さんはふふんと鼻を鳴らした。
「俺は得意だからな。死んだ兄貴のモノマネ。
『勝家、隠すとお前のためにならないぞ。今ここで、すべて話してみよ』――ってな」
うわっ……!
似てるし……。
「――汚ねぇ……!!」
信光叔父さんは昔から、ちょっと小狡いところがある。
「何を言うか! 奇麗ごとで生きていけるほど、世の中甘くないんだぞぉ!」
そっか。そうだよな……。
信光叔父さんは、ずっとその小狡さで、父上をサポートしてきたんだ。
だから父上は、いつも明るい道を歩いていけたんだ。
俺が日陰を行くことで、信勝の助けになるのなら……。
「――……俺も、練習しようかな。
……父上の――モノマネ……」
俺はポツリとつぶやいた。
今度こそ、信光叔父さんは爆笑した。
「やめておけ!
お前にこれ以上パワーアップされたら、そのうち本家が潰れるわ!!」
「えぇ~。そんなぁ……」
信光叔父さんはケラケラ笑っている。
急にふっと真顔に戻り、俺に語りかけた。
「それにな――。
お前は、兄貴のモノマネじゃなく、お前のやり方で生きるべきだ。
お前には、支えてくれる仲間がいる。
だからきっと、できるはずだ。
お前の、お前だけの、お前自身の道を行け。
そのほうが、きっと兄貴も。喜ぶはずだ」




