出発の朝
次の日、出陣の時間になっても貞じいは現れなかった。
ここから7Kmも離れた、腹心の部下の屋敷に、弟・道具と一緒になって立てこもり『絶対に出陣しない』と息巻いているらしい。
俺は、貞じいを連れて行くのをあきらめた。
………………
(進軍ルート↓
那古野から熱田まで陸路。
熱田の船着き場から、船で緒川へ)
俺は、もやもやとした気持ちのまま馬に乗り、皆を連れて熱田へと出発した。
貞じいは口うるさいが、その分きっちりしていて、細かいところにもよく気が付く。
賄賂や依怙贔屓が大嫌いで、いつも俺に、人としての正しい道を示してくれる。
貞じいがいるだけで、その場がきりりと引き締まるのに。
――貞じい……。
一緒に来てほしかったな……。
道中、ふと顔を上げると、北からやってくる軍勢が目に入った。
――敵か!?
俺は目を細めた。
――いや、敵じゃない……。
あれは――。信光叔父さん!?
「おーい! 和颯ぁ!」
信光叔父さんが、笑顔で俺に手を振った。
俺と信光叔父さんは、馬を並べて先頭を行く。
さっきまでのしんみりとしていた気持ちが、嘘みたいだ。
信光叔父さんが来てくれて、すごく! 嬉しい!
信光叔父さんはからかうように言った。
「和颯、知っているか?
昨日、織口家本家は、大騒ぎだったんだぞ」
――えっ!?
何だって!?
俺は、弾かれたように、信光叔父さんを見た。
「信勝に、何かあったのですか!?」
信光叔父さんは、きょとんとした顔で俺を見て、目を丸くした後、大笑いした。
「だよなぁ!
お前は――! そういう奴だ!!」
「え……」
――それって、どういう意味……?




