火鳥の部屋
「父は――援軍を出すと思います」
和颯が、驚いた顔で火鳥を見た。
「和颯様から、正式なご要請を。
わたくしからも、手紙で伝えておきます」
「え」
和颯が拍子抜けしたように言う。
その顔が、期待に満ちていく。
「じゃあさ、村木砦を攻めるための援軍も――」
「火鳥様。」
一益が遮った。
「道三殿は、那古野を守るための兵は貸して下さるだろう、とのことでしたが――。
村木砦を攻めるための兵はお貸しいただけると思われますか?」
「父の考えは、わたくしには分かりません。
ですが、おそらく――。
砦を攻撃するための援軍は、出さないのではないかと思います」
美濃にとっては。
今川義元の息のかかった清須軍に、那古野を占領されるのは困る。
だが、犠牲を払ってまで村木砦を守るメリットがない。
別に村木で和颯が負けても、なんとも思わないだろう。
一益は頷いた。
「――わたくしも、そう思います」
「あ~~!
そっちはダメかぁ~~!」
和颯は大げさに天井を仰いだ。
「やっぱり、火鳥は大切にされているなぁ」
火鳥は首を傾げた。事実ではないし、意味が分からない。
――そういう問題ではないのだけれど。
「信勝も、見習うべきだ!
俺は兄貴だぞ!
だいたいあいつはいつもいつも。昔からそうだったんだ。ちょっとくらい頭と顔と性格と態度と体格とネーミングセンスと運と人当たりがいいからって調子に乗りやがって。そうえいばあれはいつだったか――」
――無視しよう。
父なら。きっと。
和颯が村木砦で敗戦したら、そのまま那古野を占領してしまうのではないだろうか。
……。
…………。
え?
和颯が敗戦――?
きりきりと、真綿で胸を締め付けられるような痛みに、火鳥は戸惑う。
落ち着け。
父だって、何度も敗戦を味わっている。
和颯だって、鳴海で敗戦している。
よくあることだ。
心を、乱すな――。
和颯は大将だ。
敗戦したからと言って、大将が死ぬことなんて、ほとんどない。
だから……大丈夫。
……。
…………。
――バカバカしい。
今までこの手で、何人もの男たちを葬ってきたのに。
目の前で、あともう一人くらい死んだって、どうってことはないでしょう。
今回は、あまが池の時とは違う。仮に織口和颯が死んだとしても、任務に支障は出ないのだし。
父からも、懐剣を渡された時「織口和颯はいつでも殺して良い」との許可が下りている。
馬の上でそっと触れた、和颯の急所の感覚が、火鳥の指によみがえり――。
集中しろ!
心を、乱すな。
心を沈めて。
きちんと、理論立てて考えて――。
先を読んで行動する。
さもなくば、命を落とす。
だから。
集中しろ――!
一益が、心配そうな顔をして、こちらを見ていた。
火鳥と目が合うと、ふっと息をついて、目をそらした。




