~柴田 勝家~
難攻不落の砦・村木砦。
一体誰が、こんな砦を作ろうと思ったのか……。
勝家は、自分の目の前で、次々と自分の思い付きを披露する男を眺めた。
こんなのは、戦略とも言えない。穴だらけだ。
よくもまあ、こんなザルのようなアイディアを、自信満々に披露できるものだ。
――やっぱり和颯殿は、5歳の頃から変わっていない……。
信勝殿なら、こんな作戦、たとえ思いついたとしても、決して口にはしないだろう。
――でも、楽しそうだ……。
一益が、いちいち冷静にダメ出しをしていく。
「全員が上陸する前に、誰か一人でも見つかったら終わりです。
それに、この距離を泳いだら、疲れ切って戦闘どころではなくなります」
だが、和颯殿が腹を立てる気配はない。
「いや、そこはこう――根性でさ。みんなで力を合わせて頑張って……」
言っていることは、無茶苦茶だが。
「根性万能説を捨てろ。さすがに無理だ」
主人と、部下なのに。
一益が、卑しい忍び出身というのも、どうやら嘘ではなさそうだ。
一益は、それを隠す気すらないらしい。
――どうしてこんなに、自由なんだろう。
立場とか、ルールとか、暗黙の了解とか、常識とか。
いつでも俺たちに絡みついてくる、あの細くて煩わしい、たくさんの糸から。
「ん~~……。一益は厳しいなぁ」
和颯殿は口をとがらせる。
5歳児。それでも。――楽しそうだ。
――俺も……。
混じることができるのだろうか……。
「あ! じゃあ、これはどうだ? まず――」
「和颯殿」
試しに、和颯殿の言葉を遮ってみた。
叱られたら、土下座して謝ればいい。
このくらいなら、首が飛ぶほどのことはないだろう――。
和颯殿と一益がが、同時に勝家を見た。
――怒られる!!――
心臓が縮みあがり、背中に冷や汗が流れた。
だが、怒声は聞こえなかった。
「――申し上げても、よろしいでしょうか?」
おずおずと、尋ねてみる。
「もちろんだ!」
和颯が機嫌よく答える。
――俺も、自由に。
……なれるだろうか――
思いついたのは、常識外れの奇策――。
「――何を申し上げても、笑わないと、約束してくださいますか――?」
それでも。
――楽しそうじゃないか!!
「もちろんだとも! 新しいアイディアを、バカにするやつは嫌いだ」
――ああ。
この方はずっと昔から、そういう人だったのか――。
「ならば、申し上げます」
勝家は、つばを飲み込んだ。




